「権利保釈は無理」と言われても諦めてはいけない|裁量保釈で認めさせるための罪証隠滅のおそれの程度を下げる実務

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「権利保釈は無理」と言われても諦めてはいけない|裁量保釈で認めさせるための罪証隠滅のおそれの程度を下げる実務

家族が逮捕・起訴され、勾留が続いている。弁護士に保釈請求を依頼したが、裁判所から却下されてしまった。検察官からは「罪証隠滅のおそれがある」と言われ、このまま判決まで身体拘束が続くかもしれない。

こうした場面で諦めてしまう家族は少なくありません。しかし、保釈却下の理由が「刑訴法89条各号に該当する」というものであっても、これで保釈の道が閉ざされたわけではありません。

実務では、権利保釈が認められない事案であっても、裁量保釈(刑訴法90条)によって保釈が認められる余地が残されています。特に、1度目の保釈請求が却下された後、被告人側で一定の事情を積み上げて2度目の保釈請求に臨んだ結果、裁量保釈が許可されるという流れは、重大事件でも実際に起きています。

このページは、権利保釈が認められない事案で裁量保釈を認めさせるために、何を示す必要があるのかを、実際の判断で考慮される要素に即して説明します。

1 権利保釈と裁量保釈の違い

保釈には大きく分けて三つの類型があります。

権利保釈は刑訴法89条が定めるもので、除外事由(89条1号から6号)に該当しない限り、保釈が認められるべきものとされます。除外事由のうち実務で最も問題になるのが、4号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」です。

裁量保釈は刑訴法90条が定めるもので、権利保釈の除外事由に該当する場合であっても、裁判所が諸般の事情を考慮して適当と認めれば保釈を許可できるものです。

義務的保釈は刑訴法91条に基づくもので、勾留による拘禁が不当に長くなった場合に認められます。

多くの場面で弁護人が狙うのは、権利保釈が認められなければ次に裁量保釈という二段構えです。罪証隠滅のおそれや重大事件性を理由に権利保釈が認められない場合でも、裁量保釈を認めさせるだけの材料を積み上げることで、身体拘束からの解放を実現できます。

2 刑訴法89条4号の「罪証隠滅のおそれ」とは何か

裁量保釈を目指す場面で最も重要なのは、刑訴法89条4号の「罪証隠滅のおそれ」をどう評価するかです。

実務上、罪証隠滅のおそれの有無は、次の観点から総合的に判断されます。

・罪証隠滅の対象となり得る証拠が具体的に存在するか ・被告人がその証拠に働きかける客観的可能性があるか ・被告人がその証拠に働きかける主観的意図があるか ・罪証隠滅行為が成功する現実的可能性があるか

問題は、いったん89条4号該当性が認められた場合、裁量保釈でこれをどう覆すかです。

ここで重要なのが、「罪証隠滅のおそれが完全になくなった」ことを示す必要はないという点です。裁判所の判断枠組みは、罪証隠滅のおそれの「程度」を低減させ、適切な指定条件の設定と保釈保証金没取の威嚇があれば、裁量保釈を認めることができる程度に達しているか、という判断を行います。

したがって、弁護人が目指すのは、おそれの存在そのものを否定することではなく、おそれの「程度」を具体的事情の積み上げで減らして示すことです。

3 罪証隠滅のおそれの程度を下げるための四つの柱

実際の裁判所が裁量保釈を認めるかを判断する際、おそれの程度を下げる方向に作用する事情として、次の四つがあります。

(1)被害者・関係者の供述が既に固まっていること

被害申告が事件直後になされ、被害者が捜査機関に対して詳細な供述を行っている場合、被告人が保釈後に被害者に働きかけたとしても、その供述が覆る可能性は相当程度低くなっています。

特に、被害者が被告人に対して悪感情を明確に示している場合、被告人の接触に対して被害者側が即座に警察等に通報する可能性が高いため、仮に働きかけを試みても罪証隠滅が成功する現実的可能性は低いと評価されやすくなります。

重大事件では、被害申告の時期、被害者の供述の詳細度、被害者と被告人の関係性の冷却度が、保釈請求書で具体的に指摘されるべき事情です。

(2)身体拘束解除後の具体的な監督態勢

保釈後の生活環境について、罪証隠滅行為を物理的・心理的に防ぐ監督態勢が整っていることを示す必要があります。

典型的に有効なのは、被告人を事件地域から離れた場所(例えば別の都道府県)に居住させ、身元引受人となる両親・親族と同居させる態勢です。この場合、次の要素が具体的に立証されます。

・身元引受人の氏名、続柄、同居予定の住所 ・身元引受人の監督意思と監督能力(職業、収入、年齢、健康状態) ・被告人の通信機器(スマートフォン、パソコン等)を身元引受人が預かる予定であること ・被告人の金銭を身元引受人が管理する予定であること ・事件地域での生活基盤(住居、職場、交友関係)が既に失われていること

これらをすべて具体的に示すことで、仮に被告人に罪証隠滅の意図があったとしても、物理的に実行する機会が限られていることを裁判所に理解してもらえます。

(3)被告人の争わない姿勢と陳述書の作成

被告人が公訴事実について、被害者や関係者の供述と不必要に対立する主張をしないこと、犯行に至る経緯についても争わないことを明らかにしておくことは、罪証隠滅の意欲の程度が低いことを示す有力な材料になります。

この点を示すために、弁護人は被告人本人の陳述書を作成し、次の内容を詳しく記載します。

・公訴事実について争わない範囲を明示すること ・犯行に至る経緯について、被害者供述と整合する形で記載すること ・被害者への弁償の意思を具体的に述べること ・被害者に働きかけないことを誓約すること ・示談交渉の状況と意向を明らかにすること

注意点として、被告人が一部不同意部分を持つ場合、その部分を隠すのではなく、陳述書で明確に示した上で、それが罪証隠滅工作に及ぶ意欲の判断には影響しないことを論じる必要があります。事実関係をごまかす姿勢は、かえって罪証隠滅のおそれを基礎づける方向に働きます。

(4)弁護人による示談交渉の状況

被害弁償に向けた示談交渉が進んでおり、被告人側が真摯な態度で臨んでいることを示すことは、罪証隠滅の意欲の程度を判断する上で重要な要素です。

示談交渉が拒否されている事案であっても、弁護人が継続的に申入れを行っており、保釈保証金の原資として弁償資金が確保されていることを示せば、被告人側の姿勢は一定程度評価されます。

4 逃亡のおそれと身元引受人の役割

罪証隠滅のおそれと並んで検討されるのが、刑訴法89条3号の「逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」の該当性です。

被告人が無職であったり、身軽な境遇にあったりする場合、検察官は逃亡のおそれを強調してきます。しかし、両親等の身元引受人が具体的な監督態勢を整えているのであれば、逃亡のおそれの程度は検察官が主張するほど大きくないと評価される余地があります。

身元引受人については、単に「身柄を引き受ける」という抽象的な表現ではなく、次の点を具体的に示すことが重要です。

・身元引受人の住所、職業、被告人との関係 ・身元引受人の同居予定住所(事件地域から離れていること) ・身元引受人が被告人の通信機器や金銭を管理する予定であること ・身元引受人が被告人の外出状況を把握する予定であること ・身元引受人の上申書または陳述書の添付

5 指定条件と保釈保証金の意味

裁判所が裁量保釈を許可する際、罪証隠滅や逃亡を防ぐために、指定条件と保釈保証金を設定します。

指定条件としては、居住地の指定、3日以上の不在には裁判所の許可を得ること、召喚への出頭義務、事件関係者との接触禁止、被害者の生活圏への立入禁止などが典型的に付されます。重大事件では、事件関係者との接触禁止条項や、被害者の生活圏(例えば、被害者が居住する市内)への立入禁止条項が具体的に付されます。

保釈保証金については、事案の軽重、被告人の資力、罪証隠滅のおそれの程度等を総合して金額が定められます。軽微な事件では150万円から300万円程度、重大な事件では500万円から1000万円以上に及ぶこともあります。

保証金の金額は、保釈を取り消された場合に没取されることの威嚇効果を通じて、被告人の遵守を確保する機能を持ちます。裁判所は、罪証隠滅や逃亡のおそれがやや高いと考える事案では、あえて高額の保証金を設定することで、指定条件と併せて保釈を許可するという判断を行うことがあります。

6 1度目の保釈請求が却下された後の動き方

1度目の保釈請求が却下された場合、弁護人としては次の選択肢があります。

準抗告(刑訴法429条)を行い、却下決定そのものを争う方法があります。却下決定に明らかな不当がある場合は有効です。

あるいは、2度目の保釈請求を行い、事情変更を理由に再度判断を求める方法もあります。塚田事件の決定書に示されているとおり、1度目の却下後も「事情変更」を総合考慮することで裁量保釈が認められる場合があります。

実務上、有効な事情変更としては次のようなものがあります。

・追加の陳述書の作成(争わない範囲の明確化、被害者への接触禁止の誓約) ・身元引受人の態勢の具体化(同居予定住所の確定、通信機器・金銭管理の具体化) ・示談交渉の進捗(被害弁償金の準備、示談交渉申入れの継続) ・生活基盤の変化(事件地域からの退去、勤務先の退職等) ・捜査の進展(被害者供述の固定、検察官請求証拠の明確化)

これらを2度目の保釈請求書で具体的に積み上げることで、1度目の判断時点では未だ考慮されていなかった事情として評価され、裁量保釈が認められる余地が広がります。

7 保釈請求書で絶対に書くべきこと

権利保釈が認められない事案で裁量保釈を目指す保釈請求書では、次の事項を具体的に記載します。

まず、89条各号該当性を争う余地があれば、具体的事実に即して争います。争う余地がない場合でも、「該当性は認められるものの、程度は限定的である」という評価を示します。

次に、罪証隠滅のおそれの程度を下げる事情として、上記三で述べた四つの柱を具体的に示します。

さらに、逃亡のおそれの程度について、身元引受人の監督態勢を具体的に示します。

そして、裁判所が付することが予想される指定条件を、被告人側から積極的に提案します。事件関係者との接触禁止、被害者の生活圏への立入禁止、通信機器の管理など、被告人側が自ら遵守する意思があることを示すことで、裁判所の判断を後押しします。

最後に、身体拘束継続により生じる具体的な不利益を示します。被告人本人の健康状態の悪化、家族への経済的影響、裁判準備の困難などを、抽象的な一般論ではなく具体的事実として示すことが重要です。

8 保釈保証金の準備と父母による身元引受け

裁量保釈が認められる場合、相当高額の保釈保証金が設定されることがあります。軽微な事件でも150万円から300万円、重大事件では500万円から1000万円、場合によってはそれ以上となります。

保証金の準備については、被告人本人の資金のほか、両親等の親族が資金を提供することが通例です。これは単に金銭を用意するという話ではなく、両親等が被告人の監督に深く関与する意思を示す行為として、身元引受けと一体のものと評価されます。

重大事件で両親が身元引受人となる場合、両親の職業、収入、健康状態、被告人との関係性、監督方針を具体的に示した陳述書を添付することが有効です。両親自身が被告人の行動に責任を持つ姿勢を示すことで、裁判所は家族単位での監督態勢が整っていると評価します。

9 当事務所の取扱事例

当事務所では、刑事事件の保釈請求について、権利保釈が認められない事案でも裁量保釈を目指す経験を重ねてきました。

ある重大事件では、1度目の保釈請求が刑訴法89条4号該当性を理由に却下されました。当事務所では、2度目の保釈請求に向けて、被告人本人に詳細な陳述書を作成してもらい、公訴事実について争わない範囲を明確に示すとともに、被害者への働きかけを行わない誓約を具体的に記載しました。

また、被告人の両親が身元引受人となり、事件地域から離れた実家で同居し、通信機器と金銭を両親が管理する態勢を整えました。事件地域での生活基盤は既に失われており、被告人が事件関係者と接触する機会は物理的にほぼ存在しない状態となっていました。

さらに、弁護人が継続的に示談交渉を行っており、被害弁償の資金も準備されていることを示しました。

これらを積み上げた2度目の保釈請求の結果、裁判所は、89条4号該当性は依然として認められるとしながらも、罪証隠滅のおそれの程度は低減したと判断し、相当高額の保釈保証金と事件関係者との接触禁止条項、被害者の生活圏への立入禁止条項を付した上で、裁量保釈を許可しました。

この事例は、重大事件であっても、罪証隠滅のおそれの程度を具体的事情の積み上げで下げて示すことで、裁量保釈が認められる余地があることを示しています。

10 家族が取るべき初動

家族が逮捕・勾留された場合、家族として取るべき初動は次のとおりです。

まず、早期に弁護人を選任することです。国選弁護人も選任されますが、私選弁護人を選任する方が、保釈請求や示談交渉を積極的に進めることができます。特に重大事件では、早期の私選弁護人選任が保釈の時期を早める決定的な要素になります。

次に、身元引受人となる家族の態勢を整えることです。事件地域から離れた場所に住居を確保できるか、家族の中で監督の役割を担える人物がいるか、保釈保証金の資金を用意できるかを早期に検討します。

さらに、被告人との接見内容を弁護人と共有することです。被告人が事実関係をどう認識しているか、争う範囲はどこか、被害者への謝罪の意思があるかといった情報は、陳述書作成の土台となります。

最後に、保釈請求の時期を弁護人と協議することです。起訴直後に即座に請求するのか、捜査の進展を待って請求するのか、1度目と2度目の間にどの程度の事情変更を積み上げるのかなど、タイミングの判断は事案によって異なります。

11 当事務所がお手伝いできること

当事務所は、刑事事件の保釈請求について、権利保釈が認められない重大事件でも裁量保釈を目指した経験を有しています。罪証隠滅のおそれの程度を下げる事情の積み上げ、身元引受人の態勢の整備、被告人本人の陳述書の作成、示談交渉の進捗管理、2度目以降の保釈請求での事情変更の準備など、実務を踏まえた方針を提示します。

家族が逮捕・勾留されている方、起訴後の保釈請求を検討されている方、1度目の保釈請求が却下されてしまった方は、次の資料をご持参のうえ、ご相談ください。

・起訴状の写し(勾留質問で示された場合は、被告人が記憶している範囲で) ・現在の弁護人(国選・私選を問わず)からの連絡文書 ・被告人の家族関係、職業、収入が分かる資料 ・身元引受人となり得る家族の住所、職業、資力が分かる資料 ・保釈保証金の準備可能額 ・被告人との接見内容のメモ

起訴直後の初動が、保釈が認められる時期を大きく左右します。「権利保釈は無理」と言われても、諦めずにご相談ください。


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