トレントの意見照会書の回答書には何を書けばよいのか|同意・不同意の判断基準と回答の書き方
トレントの著作権侵害でプロバイダから届いた意見照会書には、回答書が同封されています。「同意」か「不同意」に丸をつけて返送するだけのように見えますが、どちらを選ぶかによってその後の展開が変わります。それぞれの選択がどういう意味を持つのか、「不同意」の場合に何を書くべきなのかを解説します。
回答書で問われているのは「開示に同意するか」だけ
まず確認しておくべきなのは、意見照会書の回答書で問われているのは、「発信者情報の開示に同意するかどうか」だけだということです。
著作権侵害を認めるかどうかを問われているわけではありません。 損害賠償を支払うかどうかを問われているわけでもありません。
「同意する」にチェックしても、著作権侵害を認めたことにはなりません。 「不同意」にチェックしても、著作権侵害がなかったと認定されるわけではありません。
回答書は、あくまでプロバイダが開示に応じるかどうかを判断するための材料の一つです。
1. 「同意する」を選んだ場合
開示が行われ、権利者側に契約者情報が渡る
「同意する」にチェックして返送した場合、プロバイダは権利者側に契約者の情報(氏名・住所等)を開示します。 開示後、権利者側から損害賠償請求の書面が届くことになります。
同意した場合のメリット
開示手続にかかるコストが抑えられます。
不同意で返送した場合、権利者側が裁判所に開示命令を申し立て、その結果開示が認められると、開示手続にかかった弁護士費用(10万円から数十万円程度)が損害賠償に上乗せして請求されることがあります。 裁判所がこれを損害の一部として認めるケースがあるためです。
同意して開示された場合は、この上乗せ分が発生しません。
同意しても損害額は争える
繰り返しになりますが、開示に同意したことと、損害額を争えるかどうかは別の問題です。 同意して開示された後であっても、権利者側の提示額が適正かどうかを検証し、裁判で争うことは可能です。
ただし、作品数が増えるリスクがある
同意で返送すると、プロバイダが契約者情報を開示するため、権利者側は把握しているすべての作品についてまとめて請求しやすくなります。
不同意であれば、権利者側は作品ごとに開示命令を申し立てる必要があり、手間とコストがかかるため、すべての作品について申し立てるとは限りません。
2. 「不同意」を選んだ場合
不同意にすればそれで済むわけではない
「不同意」にチェックして返送しても、それだけで開示が阻止されるとは限りません。
テレコムサービス協会書式による任意の開示請求であれば、プロバイダが任意に開示しない可能性はあります。 しかし、権利者側が裁判所に開示命令を申し立てれば、裁判所の判断で開示が認められることがあります。
すでに開示命令の申立てが行われている場合は、不同意で返送しても裁判所の判断で開示が行われることがあります。
単に「不同意」にチェックするだけでは反論にならない
回答書に「不同意」とだけ記載して返送した場合、プロバイダや裁判所に対する反論として不十分です。
なぜ同意しないのか、具体的な理由を記載する必要があります。
不同意の場合に書くべき理由
不同意の理由としては、たとえば次のような主張が考えられます。
対象の通信を自分が行ったものかどうか不明であること。 権利者側が使用している監視ツールの正確性に疑問があること。 IPアドレスの割当てと実際の利用者の同一性が確認されていないこと。
裁判例の中には、トレント監視ツールの正確性を指摘して開示が否定された例もあります。
ただし、契約者に開示されている情報だけで具体的に反論を組み立てるのは容易ではなく、弁護士に相談して回答書の内容を検討する方が安全です。
不同意で開示された場合の費用負担リスク
不同意で返送したにもかかわらず、裁判所の判断で開示が認められた場合、権利者側が開示手続にかけた弁護士費用(10万円から数十万円程度)が、損害賠償に上乗せして請求されることがあります。
この費用は、著作権侵害がなければ発生しなかった費用として、侵害と相当因果関係のある損害と認められることがあるためです。
つまり、不同意で返送しても結局開示された場合は、同意で返送した場合よりも最終的な負担が増える可能性があるということです。
3. どちらを選ぶべきか
判断の基準
同意・不同意のどちらを選ぶべきかは、事案の状況によります。
トレントを利用していたことに覚えがあり、対象作品にも心当たりがある場合は、不同意で返送しても最終的に開示される可能性が高く、開示費用の上乗せリスクを負うことになります。
一方、トレントを利用した覚えが全くない場合や、契約者は自分だが利用者は別の人物(家族等)である場合は、不同意の理由を具体的に記載できるため、不同意で返送する合理性があります。
いずれの場合も、損害額は争える
同意であれ不同意であれ、開示後に権利者側から届く損害賠償請求に対しては、損害額の主張立証を行うことができます。
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。 その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
4. 回答書の期限について
期限は権利者側が設定したもの
回答書には返送期限が記載されています。 多くの場合、届いてから2週間程度の期限が設定されています。
この期限はプロバイダが設定した目安であり、法律で定められた絶対的な期限ではありません。 期限を数日過ぎたからといって、直ちに不利益が生じるわけではありません。
ただし、大幅に遅れると、回答なしとして扱われる可能性があるため、できるだけ期限内に返送することが望ましいです。
期限内に弁護士に相談することが理想
回答書の返送期限内に弁護士に相談し、同意・不同意の判断と回答書の内容を検討するのが理想です。
弁護士に依頼すれば、回答書の作成から返送まで弁護士が対応することもできます。
5. ソフトバンクの場合は意見照会書が届かないことがある
プロバイダによっては、意見照会書を送付せずに手続が進むことがあります。
ソフトバンクでは、契約者に意見照会書を送付しないまま開示手続を進め、開示命令が発令された段階で初めて「開示命令が発令された旨の通知書」が届くことがあります。
この場合、意見照会書の段階で同意・不同意を回答する機会がなく、開示命令が出た後の対応から始めることになります。
通知書が届いた段階で弁護士に相談し、今後の対応方針を検討してください。
まとめ
意見照会書の回答書で問われているのは、発信者情報の開示に同意するかどうかです。
同意した場合は、開示手続の費用負担リスクがない代わりに、請求対象の作品数が増える可能性があります。 不同意の場合は、開示を阻止できる可能性がある代わりに、結局開示された場合に開示費用(10万円から数十万円程度)を上乗せして請求されるリスクがあります。 不同意で返送する場合は、単にチェックするだけでなく、具体的な理由を記載する必要があります。 いずれの場合も、開示後の損害額は争えます。 ソフトバンクでは意見照会書が届かず、いきなり開示命令の通知書が届くことがあります。
同意・不同意の判断は事案によって異なるため、弁護士に相談して回答書の内容を検討することをおすすめします。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
よくある質問
意見照会書に同意しても著作権侵害を認めたことになりますか。 なりません。同意は発信者情報の開示に同意したという意味であり、著作権侵害を認めたことや損害賠償を支払うことに同意したことにはなりません。
不同意にすれば開示を防げますか。 任意の開示請求であれば防げる可能性がありますが、権利者側が裁判所に開示命令を申し立てれば、裁判所の判断で開示されることがあります。不同意にすれば確実に防げるわけではありません。
不同意にした場合、開示費用を請求されますか。 不同意で返送したにもかかわらず開示が認められた場合、権利者側の開示手続にかかった弁護士費用(10万円から数十万円程度)が損害賠償に上乗せして請求されることがあります。
回答書の期限を過ぎてしまいました。もう出せませんか。 多少の遅れであれば受け付けてもらえることが多いです。大幅に遅れると回答なしとして扱われる可能性があるため、できるだけ早く対応してください。
ソフトバンクから意見照会書が届きません。 ソフトバンクでは、意見照会書を送付しないまま手続が進み、開示命令の発令後に初めて通知書が届くことがあります。通知書が届いた段階で弁護士に相談してください。
お問い合わせ
あいち岡崎法律事務所
〒444-0864 愛知県岡崎市明大寺町字的場13-1 My Station Okazaki East 601
電話:0564-73-3487
FAX:050-3172-6485
受付時間:平日9:00〜17:00
アクセス:名鉄東岡崎駅南口徒歩30秒
