トレントのダウンロードを途中でやめた場合も請求されるのか|ファイルの一部しか持っていなくても著作権侵害になる理由と損害額への影響
トレントの著作権侵害で書面が届いたが、「ダウンロードは途中で止めた」「最後まで落としていない」「動画は一度も開いていない」という方がいます。完全なファイルを持っていないのに、なぜ損害賠償を請求されるのか。途中でやめたことは何の意味も持たないのか。ダウンロードが完了していない場合の考え方を解説します。
「最後まで落としていないのに」という疑問
トレントの利用者の中には、次のような事情を抱えている方がいます。
ダウンロードを始めたが、時間がかかるので途中でやめた。
ダウンロードが途中で止まったまま放置していた。
ダウンロードは完了したかもしれないが、中身は一度も見ていない。
このような方からは、「完成したファイルを持っていないのだから、著作権侵害にはならないのではないか」という疑問がよく寄せられます。
結論から言えば、ダウンロードが途中であっても著作権侵害が成立すると判断される可能性が高いです。
ただし、途中でやめたという事情は、損害額の算定において意味を持つことがあります。
1. トレントはファイルを細かく分けてやり取りしている
ピースという単位
トレントでは、1つのファイルを「ピース」と呼ばれる小さな断片に分割してやり取りします。
利用者は、複数の相手から少しずつピースを受け取り、最終的にすべてのピースがそろうとファイルが完成します。
ピースを受け取った瞬間から送信側にもなる
トレントの仕組み上、受け取ったピースは、ファイル全体が完成する前であっても、他の利用者に送信できる状態になります。
つまり、ダウンロードが1割しか進んでいない段階でも、その1割分のピースは他の利用者に向けて送信可能な状態に置かれています。
「途中でやめた」としても、それまでに受け取ったピースについては、アップロード(送信可能化)が行われていたことになります。
2. ファイルの一部だけでも著作権侵害になるのか
裁判例の考え方
トレントの著作権侵害をめぐる裁判例では、利用者が保有していたのがファイルの一部(ピース)にとどまる場合であっても、送信可能化権の侵害が成立すると判断されたものがあります。
1つ1つのピースは単体では再生できない断片であっても、利用者はトレントに参加して他の利用者と協力し合い、全体として作品のファイルを送受信する仕組みに加わっているという評価です。
「動画を開いていない」は反論にならない
ダウンロードした動画を一度も再生していないという事情も、著作権侵害の成否には影響しにくいです。
権利者側が問題にしているのは、利用者が作品を見たかどうかではなく、作品のファイル(またはその一部)を他の利用者に送信できる状態に置いていたかどうかです。
したがって、責任を免れる理由にはなりにくい
「途中でやめた」「開いていない」という事情は、損害賠償責任そのものを否定する根拠としては弱いと考えるべきです。
3. 途中でやめたことが意味を持つのは損害額の算定
責任の有無と金額は別の問題
著作権侵害が成立するかどうかと、損害額がいくらになるかは、別に判断されます。
途中でやめたという事情は、責任の有無ではなく、損害額の算定において利用者側に有利な事情になり得ます。
保有していたピースの割合
ファイルの一部しか保有していなかった場合、他の利用者に送信できたのはその一部に限られます。
完全なファイルを長期間共有していた利用者と比べれば、権利者の損害への寄与は小さいと評価される余地があります。
送信可能な状態にしていた期間
途中でダウンロードをやめ、ソフトも終了していたのであれば、送信可能な状態にしていた期間は短くなります。
損害額は、利用者が送信可能な状態にしていた期間のダウンロード回数を基礎に算定されるため、期間が短ければ損害額は下がる方向に働きます。
権利者側の提示額は、こうした事情を考慮していない
権利者側が提示してくる示談金は、途中でやめたかどうか、どの程度ピースを保有していたかにかかわらず、一律の金額であることが多いです。
完全なファイルを長期間共有していた方と、途中でやめた方が、同じ44万円や88万円を提示されているということです。
裁判で争えば、こうした個別の事情が損害額に反映される可能性があります。
4. 「途中で止まったまま放置していた」場合の注意点
ソフトが起動し続けていた可能性
ダウンロードが途中で止まったまま、トレントのソフト自体は起動し続けていた場合、それまでに受け取ったピースは送信可能な状態に置かれ続けていたことになります。
自動起動設定になっていれば、パソコンを起動するたびにソフトも立ち上がり、ピースの共有が続いていた可能性があります。
「途中でやめたつもり」でも、実際には長期間共有を続けていたということがあり得ます。
今すぐソフトを停止する
まだトレントのソフトが残っている場合は、直ちにアンインストールし、自動起動設定も解除してください。
ダウンロードが完了していないファイルであっても、ソフトが動いている限り共有は続きます。
ファイルは削除せず残しておく
途中までダウンロードしたファイルや、ソフトの設定情報は、弁護士に相談するまで残しておいてください。
ダウンロードの進み具合や、いつ止めたかを確認する材料になり、損害額の主張立証に役立つことがあります。
5. 弁護士に伝えるべきこと
途中でやめたという事情を損害額の主張に反映させるためには、次の情報を整理して弁護士に伝えてください。
いつダウンロードを始めたか。
どの程度進んだところで止めたか(覚えている範囲で)。
いつソフトを終了またはアンインストールしたか。
自動起動設定にしていたか。
ダウンロードしたファイルを再生したかどうか。
記憶が曖昧な部分があっても構いません。
覚えている範囲の情報でも、主張の材料になります。
6. 当事務所の対応
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
ダウンロードが途中で止まっていた事情や、送信可能な状態にしていた期間が短いという事情も、この主張の中で考慮します。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
トレントのダウンロードを途中でやめた場合でも、著作権侵害は成立すると判断される可能性が高いです。
トレントはファイルをピースに分けてやり取りし、受け取ったピースはダウンロード途中でも他の利用者に送信できる状態になります。
裁判例では、ファイルの一部しか保有していなくても送信可能化権の侵害が成立すると判断されたものがあります。
動画を一度も開いていないことも、責任を免れる理由にはなりにくいです。
一方で、途中でやめたという事情は、保有していたピースの割合や送信可能期間の短さとして、損害額の算定で利用者側に有利に働くことがあります。
権利者側の提示額はこうした事情を考慮せず一律であることが多く、裁判で争えば個別の事情が反映される可能性があります。
途中でやめたことを理由に放置するのではなく、その事情を弁護士に伝えて、損害額の見通しを確認してください。
よくある質問
ダウンロードを途中でやめました。それでも請求されますか。
請求されることがあります。トレントでは受け取ったピースがダウンロード途中でも送信可能な状態になるため、途中でやめても著作権侵害が成立すると判断される可能性が高いです。
ダウンロードした動画を一度も見ていません。関係ありますか。
著作権侵害の成否にはほとんど影響しません。問題とされているのは、ファイル(またはその一部)を他の利用者に送信できる状態に置いていたかどうかです。
途中でやめたことは何の意味もないのですか。
責任の有無には影響しにくいですが、損害額の算定では意味を持つことがあります。保有していたピースの割合が小さいことや、送信可能期間が短いことは、損害額が下がる方向に働く事情です。
途中で止まったまま放置していました。大丈夫ですか。
トレントのソフトが起動し続けていた場合、それまでに受け取ったピースの共有が続いていた可能性があります。直ちにソフトをアンインストールし、自動起動設定も解除してください。
途中までのファイルは削除した方がよいですか。
弁護士に相談するまで残しておいてください。ダウンロードの進み具合や止めた時期を確認する材料になり、損害額の主張立証に役立つことがあります。
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