トレントの開示請求で権利者側はどうやって利用者を特定するのか|監視から請求までの手順を時系列で解説
トレントの著作権侵害で書面が届いたとき、「相手はどうやって自分を見つけたのか」「いつから監視されていたのか」と疑問に思う方がいます。権利者側が監視を開始してから利用者に損害賠償請求書を送付するまでの手順を、時系列で解説します。相手方の動きを知ることで、自分が今どの段階にいるのか、今後何が起きるのかが分かります。
利用者の特定は一瞬ではない
権利者側がトレントの利用者を特定するまでには、複数の段階があり、全体で数か月から1年以上かかることがあります。
書面が届いた時点で初めて問題を知る方がほとんどですが、権利者側の動きは書面が届くよりもずっと前から始まっています。
ステップ1:トレントネットワークの監視
監視ツールの設置
権利者側(またはその委託先)は、トレントネットワーク上に監視ツールを設置しています。
この監視ツールは、対象ファイル(権利者が著作権を有する作品のファイル)を共有しているIPアドレスを自動的に記録します。
記録される情報
監視ツールが記録するのは、主に次の情報です。
対象ファイルのハッシュ値(ファイルを一意に識別する値)。
そのファイルを共有していたIPアドレス。
記録された日時(タイムスタンプ)。
接続先のポート番号。
利用者はこの段階で監視されていることを認識できない
監視ツールはトレントネットワーク上の他のクライアントと同じように動作するため、利用者が「自分は監視されている」と認識することはできません。
トレントを使っている間、権利者側の監視ツールにIPアドレスが記録されていたとしても、利用者には何の通知もありません。
ステップ2:IPアドレスの整理と開示請求の準備
記録されたIPアドレスの整理
監視ツールで記録された大量のIPアドレスから、権利者側は開示請求の対象とするIPアドレスを整理します。
1本の動画について数十件から数百件のIPアドレスが記録されていることがあります。
どのプロバイダに開示請求を行うかの特定
IPアドレスから、そのIPアドレスを割り当てていたプロバイダ(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク等)を特定します。
IPアドレスの割当情報は、WHOIS(フーイズ)と呼ばれる公開データベースで確認できます。
開示請求の書面を作成する
権利者側の代理人弁護士が、プロバイダに対する発信者情報開示請求の書面を作成します。
テレコムサービス協会書式による任意の開示請求とするか、裁判所への開示命令の申立てとするかを判断します。
ステップ3:プロバイダへの開示請求
任意の開示請求の場合
権利者側がテレコムサービス協会書式でプロバイダに開示を請求した場合、プロバイダは契約者に意見照会書を送付し、開示に同意するか不同意かを確認します。
裁判所への開示命令申立ての場合
権利者側が裁判所に発信者情報開示命令を申し立てた場合、裁判所が申立内容を審査し、開示命令を発令するかどうかを判断します。
開示命令が発令された場合、プロバイダは契約者に「開示命令が発令された旨の通知書」を送付します。
ソフトバンクの場合
ソフトバンクでは、契約者に意見照会書を送付せずに手続を進め、開示命令が出た段階で初めて通知書を送付することがあります。
この段階で初めて利用者が問題を把握する
多くの利用者は、プロバイダからの意見照会書または開示命令通知書が届いた段階で、初めて問題を把握します。
権利者側の監視と開示請求の準備は、この書面が届くよりもずっと前から進んでいたということです。
ステップ4:プロバイダによる開示
契約者情報の開示
プロバイダが開示に応じた場合(または裁判所の開示命令に基づいて開示する場合)、次の情報が権利者側に渡ります。
契約者の氏名。
契約者の住所。
契約者の電話番号(開示対象に含まれている場合)。
契約者のメールアドレス(開示対象に含まれている場合)。
この段階で権利者側に個人情報が渡る
開示が行われた時点で、権利者側は利用者の氏名と住所を把握しています。
以後、権利者側は利用者の住所に直接書面を送付できるようになります。
ステップ5:損害賠償請求書の送付
権利者側の代理人弁護士から書面が届く
開示によって特定された契約者に対して、権利者側の代理人弁護士が損害賠償請求書を送付します。
書面には次の内容が記載されています。
対象作品。
請求金額(個別和解、包括和解)。
回答期限。
刑事告訴の予告。
提示額は権利者側が設定した金額
この書面に記載されている金額は、権利者側が独自に設定した請求額であり、裁判所が認めた金額ではありません。
ステップ6:以後の展開
利用者が示談に応じた場合
利用者が提示額で和解書に署名し、支払いを完了すれば、その権利者との関係では解決します。
利用者が応じなかった場合
利用者が示談に応じなかった場合、権利者側は次のいずれかを選択します。
追加の督促書面を送付する。
訴訟を提起する。
請求を事実上やめる(確率は低い)。
弁護士が介入した場合
利用者が弁護士に依頼した場合、受任通知が送付され、以後の連絡は弁護士が窓口になります。
裁判で争った場合は、著作権法第114条に基づく損害額の主張立証が行われ、裁判所が適正な損害賠償金額を認定します。
全体のタイムライン
トレントの利用(監視ツールがIPアドレスを記録)。
↓ 数週間から数か月
権利者側がIPアドレスを整理し、プロバイダを特定。
↓ 数週間から数か月
権利者側がプロバイダに開示請求を行う。
↓ 数週間
プロバイダが契約者に意見照会書を送付(ソフトバンクの場合は省略されることがある)。
↓ 数週間から数か月
開示が行われ、契約者の個人情報が権利者側に渡る。
↓ 数週間から数か月
権利者側の代理人弁護士から損害賠償請求書が届く。
トレントを利用してから損害賠償請求書が届くまで、全体で半年から1年以上かかることがあります。
自分が今どの段階にいるか
意見照会書が届いた段階
ステップ3の途中です。
まだ権利者側に個人情報は渡っていない可能性があります。
最も選択肢が広い段階です。
開示命令通知書が届いた段階
ステップ3からステップ4の間です。
裁判所の開示命令が出ており、これから開示が行われる段階です。
損害賠償請求書が届いた段階
ステップ5です。
権利者側はすでに個人情報を把握しています。
提示額の検証と対応方針の判断が必要です。
訴状が届いた段階
ステップ6の訴訟提起です。
答弁書の提出期限が迫っており、最も緊急度が高い段階です。
どの段階でも損害額は争える
自分がどの段階にいるかにかかわらず、損害額の主張立証は行えます。
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
権利者側がトレントの利用者を特定するまでには、複数のステップがあります。
監視ツールでIPアドレスを記録する(利用者は認識できない)。
IPアドレスを整理し、プロバイダを特定する。
プロバイダに発信者情報の開示を請求する。
プロバイダが契約者に意見照会書または開示命令通知書を送付する。
開示が行われ、個人情報が権利者側に渡る。
権利者側が損害賠償請求書を送付する。
全体で半年から1年以上かかることがあります。
利用者が問題を把握するのはステップ4以降であり、権利者側の動きはそのずっと前から始まっています。
書面が届いた段階で、自分がどのステップにいるかを把握し、弁護士に相談して対応方針を判断してください。
よくある質問
いつから監視されていたのですか。
権利者側の監視ツールがいつから稼働していたかは、利用者側からは分かりません。トレントを利用していた時点でIPアドレスが記録されていた可能性があります。
監視されていることに気づくことはできますか。
できません。監視ツールはトレントネットワーク上の他のクライアントと同じように動作するため、利用者が監視を認識することはできません。
書面が届くまでにどのくらいかかりますか。
トレントを利用してから書面が届くまで、全体で半年から1年以上かかることがあります。
開示されたら何が権利者側に知られますか。
氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの契約者情報が渡ります。IPアドレスとタイムスタンプは開示請求の前から権利者側が把握しています。
自分が今どの段階にいるか分かりません。
届いた書面を弁護士に見せれば、どの段階にいるかを確認できます。書面の種類によって対応方針が異なるため、まず弁護士に相談してください。
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