トレントの損害賠償は自己破産で免責されるのか|示談金が払えない場合の最終手段と限界
トレントの著作権侵害で権利者側から高額の損害賠償を請求され、「どうしても払えない」という状況に追い詰められたとき、「自己破産すれば払わなくて済むのか」と考える方がいます。自己破産によってトレントの損害賠償が免責されるのかどうか、免責されない場合はあるのか、そもそも自己破産を検討する前に確認すべきことを解説します。
「自己破産」を考える前に確認すべきこと
自己破産を検討する方の多くは、権利者側から提示された金額の大きさに圧倒されています。
44万円、88万円、あるいは複数社から合計100万円を超える請求を受けて、「とても払えない」と感じています。
しかし、自己破産を検討する前に、最も重要な確認をしていない方がほとんどです。
それは、提示された金額が裁判で認められる損害賠償金額と比べて適正かどうかという確認です。
権利者側の提示額は法律で決まった金額ではありません。
裁判で争えば、提示額の数分の一から数十分の一にまで下がることがあります。
「44万円が払えない」のではなく、「そもそも44万円を払う必要がない」可能性があるということです。
1. 自己破産で免責される債務と免責されない債務
自己破産の基本
自己破産とは、裁判所に申立てを行い、債務の支払義務を免除してもらう手続です。
自己破産が認められ、免責許可決定が出れば、原則としてすべての債務の支払義務が免除されます。
免責されない債務がある
ただし、破産法第253条第1項は、免責されない債務(非免責債権)を定めています。
非免責債権に該当する場合、自己破産しても支払義務は残ります。
トレントの損害賠償との関係で問題になるのは、同条同項第2号の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」と、第3号の「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」です。
2. トレントの損害賠償は非免責債権に該当するか
「悪意で加えた不法行為」とは
破産法第253条第1項第2号の「悪意」とは、単なる故意ではなく、「他人を害する積極的な意欲」を意味すると解されています。
トレントの利用者の多くは、ダウンロードが目的であり、権利者に損害を与えることを積極的に意欲していたわけではありません。
アップロードについても、トレントの仕組みによって自動的に行われるものであり、権利者への加害を積極的に意欲して行ったとは評価しにくいです。
したがって、トレントの著作権侵害に基づく損害賠償は、「悪意で加えた不法行為」には該当しない可能性が高いと考えられます。
「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」とは
第3号は、人の生命や身体に対する侵害を対象としています。
トレントの著作権侵害は財産権の侵害であり、生命や身体の侵害ではないため、第3号には該当しません。
原則として免責される可能性がある
以上から、トレントの著作権侵害に基づく損害賠償は、非免責債権には該当せず、自己破産によって免責される可能性があると考えられます。
ただし、個別の事案の事情(大量かつ長期間にわたる組織的な侵害等)によっては、判断が異なる可能性もあるため、一律には断言できません。
3. 自己破産のデメリット
免責されるとしても代償は大きい
自己破産によって損害賠償の支払義務が免除されるとしても、自己破産には次のようなデメリットがあります。
信用情報機関に事故情報が登録され、5年から10年程度、新たな借入れやクレジットカードの利用が困難になります。
一定の財産(不動産、高額の預貯金、保険の解約返戻金等)を手放す必要があります。
官報に氏名・住所が掲載されます。
一部の職業(保険募集人、警備員、弁護士等)について、手続中は資格制限を受けます。
トレントの損害賠償のためだけに自己破産するのは合理的か
権利者側の提示額が44万円や88万円である場合に、その金額のためだけに自己破産するのは、デメリットの大きさに比べて合理的とはいえないことが多いです。
まして、裁判で争えば数万円から十数万円程度にまで減額される可能性があるのであれば、自己破産を検討するまでもなく、裁判で争った方が経済的にも社会的にもはるかに有利です。
4. 自己破産よりも先に検討すべきこと
提示額が適正かどうかの検証
自己破産を検討する前に、権利者側の提示額が裁判で認められる損害賠償金額と比べて適正かどうかを弁護士に確認してください。
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
提示額が88万円であっても、裁判で争った結果が十数万円であれば、自己破産を検討する必要はなくなるかもしれません。
裁判で争うという選択肢
権利者側が個別の条件交渉に応じない場合でも、裁判で争えば裁判所が著作権法第114条に基づいて損害賠償金額を認定します。
裁判所が認定する金額は、権利者側の提示額を大幅に下回ることがあります。
債務不存在確認訴訟
利用者側から先に「債務不存在確認訴訟」を提起し、「権利者が主張する金額のうち、〇〇円を超える部分は債務が存在しない」ことを裁判所に確認してもらうという方法もあります。
5. 刑事告訴への対応
自己破産をしても、刑事告訴を阻止する効果はありません。
自己破産は民事の債務を免除する手続であり、刑事の責任とは無関係です。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
トレントの損害賠償は、自己破産によって免責される可能性はあります。
しかし、自己破産を検討する前に確認すべきことがあります。
権利者側の提示額は法律で決まった金額ではなく、裁判で争えば大幅に下がる可能性があります。
裁判で争った結果が数万円から十数万円程度であれば、自己破産を検討する必要はなくなることがあります。
自己破産には、信用情報の登録、財産の処分、官報掲載、資格制限などの大きなデメリットがあります。
トレントの損害賠償のためだけに自己破産することは、多くの場合合理的ではありません。
「払えない」と感じたとき、最初にすべきことは自己破産の検討ではなく、提示額が適正かどうかの検証です。
弁護士に相談して、裁判で争った場合の見通しを確認してください。
よくある質問
トレントの損害賠償は自己破産で免責されますか。
非免責債権に該当しなければ、免責される可能性があります。トレントの著作権侵害は「悪意で加えた不法行為」には該当しない可能性が高いと考えられますが、個別の事案によって判断が異なることがあります。
自己破産すれば刑事告訴も免れますか。
免れません。自己破産は民事の債務を免除する手続であり、刑事の責任には影響しません。
示談金が払えないので自己破産を考えています。
自己破産を検討する前に、提示された金額が裁判で認められる損害賠償金額と比べて適正かどうかを確認してください。裁判で争えば大幅に下がり、自己破産を検討する必要がなくなることがあります。
裁判で争えば自己破産しなくて済みますか。
事案によりますが、裁判で争った結果が数万円から十数万円程度であれば、自己破産を検討する必要はなくなることが多いです。弁護士に見通しを確認してください。
自己破産のデメリットは何ですか。
信用情報機関への事故情報の登録(5年から10年程度)、一定の財産の処分、官報への掲載、一部の職業の資格制限などがあります。
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