トレントの開示請求で最も多いのはアダルト動画に関する事案です。「内容が内容だけに誰にも相談できない」という心理から対応が遅れやすく、結果的に不利な状況に陥ることがあります。AV関連の開示請求の特徴、他のジャンルとの違い、対応で気をつけるべき点を解説します。
アダルト動画の事案は「相談しにくい」から対応が遅れやすい
トレントに関する開示請求のうち、最も件数が多いのはアダルト動画に関する事案です。
しかし、アダルト動画の事案には、他のジャンルにはない特有の問題があります。 それは、内容がアダルトであるために、家族はもちろん、友人や同僚にも相談しにくいという心理的なハードルです。
この心理が原因で、意見照会書を受け取っても対応を先延ばしにしてしまったり、「恥ずかしいから早く終わらせたい」と焦って権利者側の言い値で支払ってしまったりするケースが少なくありません。
いずれの対応も、冷静に検討すれば避けられたはずの不利益を招くおそれがあります。
本記事では、アダルト動画のトレント事案に特有の事情と、対応するうえで知っておくべきポイントを解説します。
1. なぜアダルト動画の事案が多いのか
トレントで共有されやすいコンテンツ
トレントで共有される著作物にはさまざまなジャンルがありますが、アダルト動画はファイルサイズが大きく、有料配信サイトで販売されているものが無料で入手できるという動機から、トレントで共有されやすい傾向があります。
AV制作会社が積極的に権利行使を行っている
アダルト動画の制作会社の中には、トレントによる著作権侵害に対して組織的に開示請求と損害賠償請求を行っているところがあります。 監視システムを導入し、侵害を検知したIPアドレスを記録し、プロバイダへの開示請求を継続的に行っています。
そのため、アダルト動画をトレントでダウンロードした利用者に意見照会書が届く確率は、他のジャンルと比べて高い傾向があります。
2. アダルト動画の事案に特有の心理的ハードル
「アダルト動画を見ていたこと自体が恥ずかしい」
開示請求や損害賠償請求の内容を見ると、対象作品のタイトルが具体的に記載されていることがあります。 アダルト動画のタイトルが書面に書かれているのを見て、「この書面を誰かに見られたらどうしよう」という不安が先に立ち、内容の検討が後回しになることがあります。
「弁護士にも相談しにくい」
弁護士に相談すれば対応できることはわかっていても、「アダルト動画のことを弁護士に話すのは恥ずかしい」と感じて相談をためらう方がいます。
しかし、弁護士はこの種の相談を日常的に受けています。 アダルト動画の事案だから特別な目で見るということはありません。 相談内容は守秘義務で守られるため、弁護士から外部に漏れることもありません。
「早く終わらせたい」が判断を歪める
恥ずかしさから「とにかく早く終わらせたい」と考え、権利者側の提示額をそのまま支払ってしまうケースがあります。
しかし、先に述べたとおり、権利者側の提示額は権利者が独自に設定した定額であり、裁判所が認める損害額とは異なることがあります。 「恥ずかしいから早く払って終わりにしたい」という気持ちは理解できますが、それが合理的な判断とは限りません。
3. アダルト動画の事案で権利者側が主張する金額
定額での一括請求が多い
アダルト動画の事案では、権利者側(またはその代理人弁護士)が、作品ごとに一定額の支払いを求めてくるケースが多いです。 条件交渉に応じない権利者も少なくありません。
裁判例との乖離
裁判例では、アダルト動画1作品あたりの損害額は、権利者の請求額より大幅に低く認定されることがあります。
知財高裁令和4年4月20日判決では、1人あたり約1万6,000円から6万円台が認容されました。 東京地裁令和5年8月31日判決の事案では、権利者が278万円を超える損害を主張したのに対し、裁判所が認めた損害賠償債務は3万円を超えないと判断されました。
裁判所は、販売価格ではなく利益額を基準にし、ダウンロード回数も利用者が送信可能な状態にしていた期間に限定して認定する傾向があります。
複数作品の場合
アダルト動画の事案では、複数の作品について請求が来ることがあります。 しかも、制作会社ごとに別々の代理人弁護士から請求が届くため、対応が煩雑になりやすいです。
1社目に焦って全額を支払ってしまうと、2社目以降の請求への対応原資が不足するという問題は、アダルト動画の事案で特に起こりやすい展開です。
4. 「アダルトだから厳しくなる」とは限らない
作品ジャンルで法的な扱いが変わるわけではない
著作権侵害の成否や損害額の算定は、著作権法の規定に基づいて行われます。 対象作品がアダルト動画であることは、損害額の算定方法に影響しません。
「アダルト動画だから損害が大きい」「アダルトだから罪が重い」ということは、法律上は定められていません。
「後ろめたさ」を利用されないこと
アダルト動画の事案では、利用者側の後ろめたさが、権利者側にとって有利に働くことがあります。 「恥ずかしいから争いたくない」「早く終わらせたい」という心理が、権利者側の提示額をそのまま受け入れさせる方向に作用するためです。
しかし、法的な権利義務の問題として冷静に検討すれば、提示額が妥当かどうかは別の話です。 後ろめたさと、支払うべき金額の妥当性は、分けて考える必要があります。
5. アダルト動画の事案で弁護士に依頼する意味
恥ずかしさのハードルがなくなる
弁護士に依頼すれば、権利者側とのやり取りはすべて弁護士が窓口になります。 利用者本人が権利者側と直接やり取りする必要はなくなります。
アダルト動画の事案では、権利者側の代理人が電話で直接連絡してくることがあります。 弁護士に依頼していなければ、自分で電話に出て、アダルト動画の件について話をしなければなりません。 弁護士を窓口にすれば、この負担はなくなります。
書面が自宅に届かなくなる
弁護士に依頼すれば、以後の書面は弁護士事務所に届きます。 アダルト動画のタイトルが記載された書面が自宅に届いて、家族に見られるというリスクを減らすことができます。
裁判例を踏まえた対応ができる
弁護士に依頼すれば、裁判例に基づいて提示額の妥当性を検討し、裁判で争った場合の見通しを踏まえた対応方針を立てることができます。
「恥ずかしいから早く払いたい」という気持ちのまま判断するのと、裁判例を踏まえた見通しを持ったうえで判断するのとでは、結果が大きく変わることがあります。
6. 対応で気をつけたいこと
放置しない
アダルト動画の事案で最も多い失敗は、恥ずかしさから書面を放置してしまうことです。 放置すれば、権利者側からの連絡が繰り返し届き、家族に気づかれるリスクが高まります。 訴訟に進めば訴状が自宅に届き、判決後に給与差押えに至れば職場にも知られます。
アダルト動画の事案だからこそ、早い段階で弁護士に依頼して窓口を切り替え、書面が自宅に届かないようにすることが重要です。
焦って権利者の言い値で支払わない
「早く終わらせたい」という気持ちから、提示された金額をそのまま支払うことは、必ずしも合理的ではありません。 裁判例では、権利者の提示額より裁判所の認定額の方が大幅に低いことがあります。
特に、複数の権利者から請求が来る可能性がある場合、1社目に全額を支払ってしまうと、後から対応が難しくなります。
自分で権利者側に連絡しない
恥ずかしさから「謝れば許してもらえるのではないか」と考えて、自分で権利者側に連絡する方がいます。 しかし、事実関係が整理できていない段階で連絡すると、不用意な説明をしてしまったり、後から説明を変えにくくなったりすることがあります。
まとめ
トレントの開示請求で最も多いアダルト動画の事案には、他のジャンルにはない心理的なハードルがあります。
「恥ずかしくて相談できない」「早く終わらせたい」という心理が、放置や言い値での支払いにつながりやすい。 しかし、アダルト動画だから法的に不利になるということはなく、裁判例では権利者の提示額より損害額が大幅に低く認定されることがある。 弁護士に依頼すれば、権利者側とのやり取りや書面の受け取りをすべて弁護士が対応するため、恥ずかしさの問題は解消できる。
アダルト動画の事案こそ、恥ずかしさに引っ張られず、法的な見通しを持ったうえで判断することが重要です。 弁護士はこの種の相談を日常的に受けており、相談内容は守秘義務で守られます。
意見照会書や権利者側からの連絡が届いた段階で、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
よくある質問
アダルト動画の件で弁護士に相談するのは恥ずかしいのですが。 弁護士はアダルト動画のトレント事案を日常的に扱っています。内容によって特別な目で見ることはありません。相談内容は守秘義務で守られるため、外部に漏れることもありません。
アダルト動画だから損害額が高くなるのですか。 アダルト動画であることを理由に損害額が加算されるということはありません。損害額は著作権法の規定に基づいて算定されます。裁判例では、権利者の提示額より大幅に低い金額が認定されることがあります。
複数のAV制作会社から請求が来ることはありますか。 あります。トレントで複数の作品をダウンロードしていた場合、制作会社ごとに別々の代理人弁護士から請求が届くことがあります。1社目に焦って全額を支払うと、2社目以降への対応が難しくなるため、全体を把握してから判断することが重要です。
家族にアダルト動画の件を知られずに対応できますか。 弁護士に依頼すれば、権利者側との連絡窓口が弁護士事務所になるため、自宅にアダルト動画のタイトルが書かれた書面が届くリスクを減らすことができます。早い段階で弁護士に依頼して窓口を切り替えることが、家族に知られないための最も効果的な方法です。
「早く払って終わりにしたい」のですが、それでよいですか。 気持ちは理解できますが、権利者側の提示額が裁判で認められる損害額より高い場合、そのまま支払うことは合理的とは限りません。特に複数社からの請求が予想される場合、裁判例を踏まえた見通しを弁護士に確認したうえで判断することをおすすめします。
