トレントの示談金や弁護士費用に保険は使えるのか|個人賠償責任保険と弁護士費用特約の考え方
トレントの著作権侵害で示談金を請求されたとき、「火災保険や自動車保険についている個人賠償責任保険で払えないか」「弁護士費用特約が使えるのではないか」と考える方がいます。保険でまかなえるのであれば、自己負担なく解決できるかもしれません。トレントの示談金や損害賠償、弁護士費用に保険が使えるのかを解説します。
「保険で払えるなら」という期待
トレントの著作権侵害で44万円や88万円を請求されたとき、自分の加入している保険を思い出す方がいます。
火災保険や自動車保険、クレジットカードに付帯している個人賠償責任保険。
自動車保険や火災保険についている弁護士費用特約。
単独で加入している弁護士保険。
これらの保険でトレントの問題に対応できれば、経済的な負担は大きく変わります。
しかし、結論から言えば、トレントの著作権侵害に保険が使えるケースは限られています。
1. 個人賠償責任保険で示談金を払えるか
個人賠償責任保険が対象とする事故
個人賠償責任保険は、日常生活の中で他人にけがをさせたり、他人の物を壊したりして、損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われる保険です。
自転車で歩行者にぶつかってけがをさせた。
マンションで水漏れを起こして下の階の部屋を汚した。
買い物中に店の商品を落として壊した。
このように、他人の身体や財物に損害を与えた場合が主な対象です。
著作権侵害は対象外とされていることが多い
トレントの著作権侵害は、他人の身体を傷つけたり、物を壊したりしたものではありません。
権利者が被ったのは、著作権という権利の侵害による経済的な損害です。
多くの個人賠償責任保険の約款では、身体の障害や財物の損壊に起因しない損害は補償の対象外とされています。
そのため、トレントの著作権侵害に基づく損害賠償や示談金は、個人賠償責任保険の対象にならないことが多いです。
故意による損害も対象外
さらに、保険契約者の故意によって生じた損害は、一般的に補償の対象外です。
トレントの利用については、少なくともダウンロードを意図して行っているため、この点からも保険の対象外とされる可能性があります。
約款の確認は必要
保険の補償範囲は商品ごとに異なるため、最終的には加入している保険の約款を確認する必要があります。
不明な点は保険会社に問い合わせてください。
ただし、保険会社に問い合わせる際には、事案の内容を説明することになります。
問い合わせる前に、弁護士に相談して状況を整理しておくことをおすすめします。
2. 弁護士費用特約は使えるか
自動車保険の弁護士費用特約
自動車保険についている弁護士費用特約は、多くの場合、自動車事故に関するトラブルに限定されています。
トレントの著作権侵害は自動車事故とは関係がないため、自動車事故型の弁護士費用特約は使えないことが一般的です。
日常生活型の弁護士費用特約
火災保険や自動車保険の中には、日常生活全般のトラブルを対象とする弁護士費用特約もあります。
ただし、この種の特約の多くは、保険契約者が被害者になった場合(他人から損害を受け、相手方に賠償を求める場合)を対象としています。
トレントの著作権侵害では、利用者は請求を受ける側です。
被害者として相手方に請求する場面ではないため、補償の対象外とされることが多いです。
単独型の弁護士保険
弁護士費用を補償することを目的とした単独型の弁護士保険もあります。
単独型の弁護士保険では、請求を受ける側の事案も補償の対象に含まれる商品があります。
ただし、次のような制限があることが一般的です。
保険加入前に発生した事案は対象外。
加入から一定期間(待機期間)内に発生した事案は対象外。
故意による行為や法令違反に起因する事案は対象外とされることがある。
補償額に上限がある。
トレントの利用が保険加入前であれば、その時点で補償の対象外になります。
書面が届いてから加入しても、すでに発生している事案には使えないと考えるべきです。
3. 「保険が使えるなら払ってしまおう」は危険
保険の有無と、提示額が適正かどうかは別の問題
仮に何らかの保険で示談金の一部がまかなえる可能性があったとしても、提示額が裁判で認められる損害賠償金額と比べて適正かどうかは、別に検討すべき問題です。
保険で支払えるからといって、権利者側の提示額をそのまま受け入れる理由にはなりません。
保険会社が示談の内容を確認することがある
保険で損害賠償を補償する場合、保険会社は示談の内容が妥当かどうかを確認するのが一般的です。
保険会社の同意を得ずに示談した場合、保険金が支払われないことがあります。
「保険で払えると思って示談したが、保険金が出なかった」という事態は避けなければなりません。
4. 保険が使えない場合の考え方
提示額をそのまま支払う必要はない
保険が使えないと分かると、「全額自己負担で提示額を払うしかない」と感じる方がいます。
しかし、権利者側の提示額は、裁判所が認めた金額ではありません。
裁判で争えば、損害賠償金額は提示額を大幅に下回ることがあります。
知財高裁令和4年4月20日判決では、1人あたり約1万6,000円から6万円台が認容されました。
東京地裁令和5年8月31日判決では、権利者が278万円を超える損害を主張したのに対し、裁判所が認めた金額は3万円を超えない水準にとどまりました。
弁護士費用を含めた総額で比較する
保険で弁護士費用がまかなえない場合でも、弁護士費用を含めた支払総額が提示額を下回るのであれば、弁護士に依頼して裁判で争う方が経済的に有利です。
保険の有無にかかわらず、比較すべきは「提示額で示談した場合の支払額」と「裁判で争った場合の支払総額(弁護士費用込み)」です。
弁護士費用の支払いが難しい場合
収入や資産が一定の基準以下であれば、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用できる場合があります。
5. 当事務所の対応
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
何社から請求が来ても、何件訴訟になっても上限が定まっている料金体系を採用しています。
まとめ
トレントの著作権侵害に保険が使えるケースは限られています。
個人賠償責任保険は、他人の身体や財物に損害を与えた場合が主な対象であり、著作権侵害は対象外とされていることが多いです。
自動車事故型の弁護士費用特約は、トレントの事案には使えないことが一般的です。
日常生活型の弁護士費用特約も、請求を受ける側の事案は対象外とされていることが多いです。
単独型の弁護士保険は、加入前に発生した事案や待機期間内の事案が対象外とされるのが一般的です。
保険が使える場合でも使えない場合でも、提示額が適正かどうかは別に検討すべき問題です。
保険の有無にかかわらず、提示額と裁判で争った場合の見通しを比較することが判断の出発点です。
加入している保険の約款を確認するとともに、弁護士に相談して見通しを確認してください。
よくある質問
個人賠償責任保険でトレントの示談金を払えますか。
多くの個人賠償責任保険では、他人の身体や財物に損害を与えた場合が対象であり、著作権侵害は対象外とされていることが多いです。加入している保険の約款を確認してください。
自動車保険の弁護士費用特約は使えますか。
自動車事故に限定された特約であれば使えません。日常生活型の特約でも、請求を受ける側の事案は対象外とされていることが多いです。
書面が届いてから弁護士保険に加入すれば使えますか。
すでに発生している事案は補償の対象外とされるのが一般的です。加入前のトレント利用や、届いた書面に関する事案には使えないと考えるべきです。
保険が使えないなら、提示額を払うしかないのですか。
そうではありません。提示額は権利者側が設定した金額であり、裁判で争えば大幅に減額される可能性があります。弁護士費用を含めた総額と提示額を比較して判断してください。
保険会社に問い合わせてもよいですか。
問い合わせることは可能ですが、事案の内容を説明することになります。問い合わせる前に、弁護士に相談して状況を整理しておくことをおすすめします。
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