トレントの損害賠償金額の内訳|権利者側は何に対していくら請求しているのか
トレントの著作権侵害で権利者側から届く書面には、「損害賠償として〇〇万円を請求する」と記載されています。しかし、この金額が何に対する請求なのか、どのような項目で構成されているのかを理解している方は少ないです。損害賠償金額の内訳を知れば、どの部分が争えるのかが見えてきます。権利者側の請求がどのような項目で構成されているのかを分解して解説します。
損害賠償金額は1つの数字ではない
権利者側からの請求書に「44万円」「88万円」と書かれていると、それが1つの固まりの金額に見えます。
しかし、この金額は複数の項目の合計であることが多く、項目ごとに争い方が異なります。
1. 著作権侵害による財産的損害
損害賠償の中心的な項目
権利者側の請求の中心は、「著作権侵害によって権利者に生じた財産的損害」です。
これは、利用者がトレントで対象ファイルを共有(アップロード)したことにより、権利者の作品が正規に購入されなくなった損害のことです。
著作権法第114条に基づいて算定される
裁判で争った場合、この損害額は著作権法第114条の計算式に基づいて算定されます。
1ダウンロードあたりの利益額×ダウンロード回数。
権利者側はこの金額を大きく見積もって請求してきますが、裁判で争えば次の各要素で減額が見込めます。
販売価格ではなくデジタル配信の利益額を基準にすべきこと。
ダウンロード回数を送信可能期間に限定すべきこと。
共有比率で按分すべきこと。
権利者側の提示額と裁判所の認定額の差
知財高裁令和4年4月20日判決では、1人あたり約1万6,000円から6万円台が認容されました。
東京地裁令和5年8月31日判決では、権利者が278万円を超える損害を主張したのに対し、裁判所が認めた金額は3万円を超えない水準にとどまりました。
この項目だけでも、権利者側の提示額と裁判所の認定額には大きな開きがあることがあります。
2. 発信者情報の開示にかかった費用
開示費用とは
権利者側が利用者を特定するためにプロバイダに発信者情報の開示請求を行った際にかかった弁護士費用です。
監視ツールの運用費用、プロバイダへの開示請求にかかる弁護士費用、裁判所への開示命令申立ての費用などが含まれます。
金額の水準
開示費用として請求される金額は、事案によりますが、10万円から数十万円程度であることが多いです。
裁判所に開示命令を申し立てた場合は、任意の開示請求よりも高額になる傾向があります。
争い方
開示費用については、次の観点から争うことができます。
1回の開示請求で複数の利用者のIPアドレスが含まれている場合、開示費用を利用者の数で按分すべきこと。
請求されている金額が実際にかかった費用として合理的な範囲を超えていないか。
3. 訴訟提起にかかった弁護士費用
不法行為に基づく弁護士費用
不法行為に基づく損害賠償請求では、訴訟を提起するためにかかった弁護士費用の一部が、損害として認められることがあります。
裁判例では、認容される弁護士費用は、認容された損害額の10%程度とされることが一般的です。
計算の仕方
たとえば、著作権侵害による財産的損害が5万円と認定された場合、弁護士費用は5,000円程度が認容される計算です。
権利者側が「弁護士費用として30万円を請求する」と主張しても、裁判所が認める弁護士費用は認容額の10%程度にとどまるため、実際に認められる金額は大幅に低くなります。
この項目は財産的損害の認定額に連動する
弁護士費用は、財産的損害の認定額に連動して決まるため、財産的損害が下がれば弁護士費用も自動的に下がります。
著作権法第114条に基づく反論で財産的損害を下げることが、弁護士費用の項目にも波及するということです。
4. 遅延損害金
不法行為の日から発生する
不法行為に基づく損害賠償では、遅延損害金は不法行為の日(著作権侵害が行われた日)から発生します。
催告や請求の日からではなく、侵害の日から発生する点が、契約に基づく遅延損害金とは異なります。
法定利率
遅延損害金の利率は、民法所定の法定利率(年3%、2020年4月1日以降の法定利率)です。
権利者側が和解書で「年14.6%」といった高率を設定していることがありますが、これは和解条項として合意した場合に適用される利率であり、裁判で争った場合に認められる利率ではありません。
遅延損害金の金額
認容される損害額が少なければ、遅延損害金も少額にとどまります。
たとえば、損害額5万円に対する年3%の遅延損害金は、1年で1,500円です。
権利者側が提示する金額が高額であるほど遅延損害金も大きく見えますが、裁判で損害額が下がれば遅延損害金も比例して下がります。
5. 内訳を知ることで見えてくること
権利者側の提示額は「全部入り」の金額
権利者側が提示する「44万円」や「88万円」は、上記の項目(財産的損害、開示費用、弁護士費用、遅延損害金)をまとめた金額であることもあれば、「示談金」として一括で設定した金額であることもあります。
示談金として一括で設定されている場合は、そもそも内訳が示されていません。
内訳がない金額は、各項目ごとの適正性を検証すること自体ができないということです。
裁判で争えば各項目ごとに検証される
裁判で争った場合、裁判所は各項目について個別に検討し、認容額を認定します。
財産的損害:著作権法第114条に基づく計算式で算定。
開示費用:相当性を検討し、按分を適用。
弁護士費用:認容された損害額の10%程度。
遅延損害金:認容された損害額に法定利率を適用。
各項目で適正な金額が認定された結果の合計が、裁判所が認める損害賠償金額の全体像です。
「44万円」の内訳が不明なまま払うのは合理的ではない
権利者側が内訳を示さずに「44万円」と提示している場合、その金額の根拠が不明です。
根拠が不明な金額をそのまま支払うよりも、裁判で各項目を検証してもらう方が、適正な金額で解決できます。
6. 当事務所の対応
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行い、財産的損害の項目を中心に各項目について主張立証を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
トレントの著作権侵害で権利者側が請求してくる損害賠償金額は、複数の項目で構成されています。
著作権侵害による財産的損害:著作権法第114条に基づいて算定される。裁判例では1人あたり数万円程度の認容にとどまった事案がある。
開示費用:10万円から数十万円程度。利用者数での按分や相当性を争える。
弁護士費用:認容された損害額の10%程度が一般的。
遅延損害金:法定利率(年3%)に基づき、認容された損害額に連動する。
権利者側が「44万円」「88万円」と一括で提示している金額は、これらの項目の合計か、あるいは内訳すら示されていない金額です。
裁判で争えば、各項目ごとに適正な金額が認定され、合計は提示額を大幅に下回ることがあります。
内訳が分からないまま提示額をそのまま支払うのではなく、弁護士に相談して各項目の見通しを確認してください。
よくある質問
損害賠償金額の内訳は書面に記載されていますか。
記載されている場合と、一括の金額のみ記載されている場合があります。内訳が示されていなければ、その金額の根拠が不明であるということです。
財産的損害とは何ですか。
利用者がトレントで著作権を侵害したことにより、権利者が被った経済的な損害のことです。著作権法第114条に基づいて算定されます。
開示費用は必ず払わなければなりませんか。
裁判所が相当と認めた範囲で認容されますが、権利者側が請求する全額が認められるとは限りません。利用者数での按分や金額の相当性を争えます。
弁護士費用はどのくらい認められますか。
裁判例では、認容された損害額の10%程度とされるのが一般的です。損害額が5万円であれば弁護士費用は5,000円程度です。
遅延損害金はいくらになりますか。
認容された損害額に年3%(法定利率)を適用して算定されます。損害額が下がれば遅延損害金も比例して下がります。
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