トレントでダウンロードしたファイルを削除すれば問題ないのか|データを消しても請求されなくなるわけではない
トレントの著作権侵害で書面が届いたとき、あるいは書面が届く前に不安になったとき、「ダウンロードしたファイルを削除すれば証拠がなくなるから大丈夫ではないか」と考える方がいます。しかし、ファイルを削除しても請求されなくなるわけではありません。削除しても意味がない理由と、むしろ削除しない方がよい理由を解説します。
「消せば大丈夫」は誤り
トレントでダウンロードしたファイルを自分のパソコンから削除すれば、証拠がなくなって請求されなくなると考えるのは、よくある誤解です。
権利者側が持っている証拠は、あなたのパソコンの中にあるファイルではありません。
ファイルを削除しても、権利者側の証拠には何の影響もありません。
1. なぜファイルを削除しても意味がないのか
権利者側の証拠はあなたのパソコンの中にはない
権利者側が著作権侵害の証拠として保有しているのは、トレント監視ツールの記録です。
IPアドレス。
タイムスタンプ(日時)。
対象ファイルのハッシュ値。
これらはすべて、権利者側の監視システムが記録したデータであり、あなたのパソコンの中にあるデータではありません。
あなたのパソコンからファイルを削除しても、権利者側の監視システムに記録されたIPアドレスやタイムスタンプは消えません。
プロバイダのログも消えない
プロバイダが保有しているIPアドレスの割当記録(ログ)も、あなたがファイルを削除しても消えません。
権利者側は、監視ツールの記録とプロバイダのログを使って契約者を特定します。
この手続は、あなたのパソコンにファイルが残っているかどうかとは無関係に進みます。
つまり、削除しても証拠は消えない
ファイルを削除して消えるのは、あなたのパソコン上のデータだけです。
権利者側が訴訟や開示請求に使う証拠は、あなたのパソコンとは別の場所にあります。
削除しても、開示請求を止めることはできず、損害賠償請求を回避することもできません。
2. むしろ削除しない方がよい理由
自分の利用状況を確認するための材料になる
パソコンに残っているトレント関連のデータは、自分の利用状況を確認するための材料になることがあります。
どの作品をダウンロードしていたか。
いつダウンロードしたか。
ソフトの設定がどうなっていたか(自動起動の有無等)。
送信可能な状態にしていた期間はどのくらいか。
これらの情報は、損害額の主張立証に役立つことがあります。
送信可能期間の限定に使える
損害額の算定では、利用者がファイルを送信可能な状態にしていた期間が重要です。
パソコンに残っているデータから、「いつファイルを削除したか」「いつソフトをアンインストールしたか」が分かれば、送信可能期間を限定する主張の根拠になります。
しかし、データを削除してしまうと、この情報を確認する手段がなくなります。
弁護士に見てもらうための資料になる
弁護士に相談する際に、パソコンに残っているデータがあれば、利用状況をより正確に把握できます。
弁護士に「どの作品をダウンロードしていたか覚えていません」と言うよりも、「パソコンにこういうデータが残っています」と見せた方が、対応方針の検討が正確になります。
3. すでに削除してしまった場合
削除したこと自体が不利になるわけではない
すでにファイルを削除してしまった場合でも、それだけで法的に不利になるわけではありません。
権利者側の証拠はパソコンの外にあるため、パソコン内のデータの有無は裁判の結果に直接影響しません。
ただし、利用状況の確認が困難になる
削除してしまうと、自分の利用状況を確認できなくなるため、弁護士に正確な情報を伝えにくくなります。
覚えている範囲で利用時期やダウンロードしていた作品の傾向を整理しておいてください。
記憶だけでも、対応方針の検討には十分役立ちます。
「証拠隠滅」と評価されるリスク
書面が届いた後に慌ててデータを削除した場合、権利者側から「証拠隠滅を図った」と主張されるリスクがゼロではありません。
書面が届く前の日常的なファイル整理であれば、証拠隠滅と評価されることは通常ありませんが、書面が届いた後のタイミングで意図的に削除した場合は、そのように見られるおそれがあります。
4. トレントのソフトをアンインストールすることとの違い
ソフトのアンインストールはすべき
トレントのクライアントソフト(uTorrent、BitTorrent、qBittorrent等)をアンインストールすることは、直ちに行うべきです。
ソフトが起動していれば、ダウンロード済みのファイルが他の利用者にアップロードされ続けます。
ソフトをアンインストールすれば、アップロードは止まります。
ソフトのアンインストールは、「これ以上の侵害を止める」ために必要な措置です。
ファイルの削除は別の問題
ソフトをアンインストールすればアップロードは止まりますが、ダウンロード済みのファイル自体はパソコンに残ります。
このファイルを削除するかどうかは、上述のとおり、利用状況の確認に使えるかどうかという観点から判断すべきです。
弁護士に相談する前の段階では、ソフトはアンインストールし、ファイルは残しておくのが最善です。
5. 損害額はファイルの有無に関わらず争える
パソコンにファイルが残っていても残っていなくても、損害額の主張立証は行えます。
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
トレントでダウンロードしたファイルを削除しても、権利者側の証拠は消えません。
権利者側が保有する証拠(IPアドレス、タイムスタンプ、ハッシュ値)は、あなたのパソコンの外にあります。
ファイルを削除しても、開示請求や損害賠償請求を止めることはできません。
むしろ、パソコンに残っているデータは自分の利用状況を確認するための材料になるため、削除しない方がよいです。
すでに削除してしまった場合でも、覚えている範囲で利用状況を整理すれば対応は可能です。
トレントのソフトのアンインストールは直ちに行うべきですが、ファイルの削除は弁護士に相談してから判断してください。
「消せば大丈夫」ではありません。
ファイルを削除する前に、弁護士に相談してください。
よくある質問
ファイルを削除すれば請求されなくなりますか。
なりません。権利者側の証拠はパソコンの外にあるため、ファイルを削除しても開示請求や損害賠償請求を止めることはできません。
すでにファイルを削除してしまいました。不利になりますか。
削除したこと自体が直ちに不利になるわけではありません。ただし、利用状況を確認する手段がなくなるため、覚えている範囲で情報を整理しておいてください。
ファイルを削除したことが証拠隠滅になりませんか。
書面が届く前の日常的なファイル整理であれば、証拠隠滅と評価されることは通常ありません。ただし、書面が届いた後に意図的に削除した場合は、そのように見られるリスクがゼロではありません。
トレントのソフトはアンインストールすべきですか。
直ちにアンインストールすべきです。ソフトが起動していればアップロードが続き、損害が拡大します。ただし、ダウンロード済みのファイルは弁護士に相談するまで残しておいてください。
ファイルがなくても損害額を争えますか。
争えます。損害額の主張立証は、権利者側の証拠やプロバイダの記録をもとに行うものであり、パソコン内のファイルの有無には左右されません。
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