親の口座から多額の出金があった──「使途不明金」の使い込みを相続人として追及する実務

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親の口座から多額の出金があった──「使途不明金」の使い込みを相続人として追及する実務

亡くなった親の預金通帳を整理していたら、生前の取引履歴に説明のつかない出金が続いていた。親と同居していた兄弟姉妹の一人だけが通帳と印鑑を管理していた時期に、定期預金の解約、多額の現金引出し、自動振込の設定などが集中していた──。

こうした事態に直面する相続人は、決して少なくありません。亡くなった親の財産が、生前に同居家族の一人によって取り崩されていた可能性が高いと感じる場面です。しかし、「使い込んだのではないか」と疑っただけでは、法的に取り戻すことはできません。

相続人として、生前の親の口座からの不当な出金を取り戻すには、その出金が親の意思に基づくものではなかったこと、または親の意思に基づいていたとしても親に対する不当な利益供与であったことを、客観的資料に基づいて立証する必要があります。これは、亡くなった本人が答えられない以上、間接事実の積み上げによる立証作業であり、相応の準備が必要です。

このページは、生前の親の口座からの使途不明金を相続人として追及する場面で、どのような請求が成り立ち、どのような資料を集め、どのような立証を進めるかを、実務の視点から説明します。

1 使途不明金の追及──法的な請求の根拠

生前の親の口座から、親本人の意思に基づかない出金がなされた場合、相続人として追及できる請求の根拠は次のとおりです。

第一に、不当利得返還請求権(民法703条、704条)です。出金を受けた人物が、法律上の原因なく利益を得て、それによって親が損失を被った場合、親の不当利得返還請求権が発生します。これは相続によって相続人に承継されます。

第二に、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)です。出金を受けた人物が、親の同意なく、または親の意思能力を欠く状態で、親の財産を不正に取得した場合、不法行為が成立します。この場合の損害賠償請求権も相続によって相続人に承継されます。

第三に、遺産確認の訴えです。問題となる出金が親の遺産の一部であった可能性がある場合、遺産確認の訴えにより、当該金員が遺産に含まれることの確認を求めることができます。

第四に、特別受益の主張です。出金を受けた相続人がいる場合、その出金額を当該相続人の特別受益として遺産分割の中で考慮することを主張できます。

実務では、これらの請求を組み合わせて進めることが多いものです。請求の根拠は、出金の経緯、出金時の親の状態、出金後の使途などの個別事情によって選択します。

2 使途不明金の追及で立証すべき要素

使途不明金の追及で立証すべき要素は、請求の根拠ごとに整理できます。

不当利得返還請求の場合、次の要素を立証します。

第一に、当該出金が行われた事実です。預金取引履歴、ATM利用履歴、振込記録などから出金の事実を立証します。

第二に、当該出金により出金者が利益を得て、親が損失を被ったことです。出金された金員の流れを追い、出金者の口座への入金、出金者が購入した財産、出金者の生活費への充当などから立証します。

第三に、法律上の原因がなかったことです。親と出金者との間に贈与契約、貸借契約、業務委託契約などがなかったこと、あったとしてもそれが親の真意に基づくものでなかったことを立証します。

不法行為に基づく損害賠償請求の場合、次の要素を立証します。

第一に、出金者の故意または過失です。出金者が親の同意がないこと、または親の意思能力が欠けていることを認識しつつ出金を行った事実を立証します。

第二に、親の意思に反する出金であったことです。親が当該出金を承諾していなかったことを、親の従前の言動、親の意思能力の状態、出金時の関与の有無などから立証します。

第三に、損害の発生と因果関係です。

3 立証に使う資料──網羅的な収集が決め手

使途不明金の追及は、間接事実の積み上げによる立証であり、客観的資料の網羅的な収集が決め手となります。

預金取引履歴として、亡くなった親が利用していたすべての金融機関の口座について、取引履歴を取得します。一般的に金融機関は10年程度の取引履歴を保管しており、相続人として開示請求できます。普通預金、定期預金、定期積金、投資信託、外貨預金など、すべての商品の履歴を取得します。

通帳・印鑑の保管状況として、誰がいつ通帳と印鑑を保管していたか、誰がATMカードを使えたか、誰がインターネットバンキングのIDを知っていたかを整理します。

ATM利用記録として、出金がATMで行われた場合、ATMの所在地、時間、利用回数などから、誰が出金を行ったかを推認する手がかりとなります。ATMの所在地が出金者の生活圏に集中していれば、当該出金者の関与が推認されます。

防犯カメラ映像として、銀行窓口、ATMコーナーには防犯カメラが設置されています。事件性が認められれば、警察の捜査を通じて、または弁護士会照会を通じて、当時の映像の確認を試みます。映像の保存期間は短いため、早期の対応が必要です。

医療記録として、出金が行われた時期に親がどのような健康状態にあったか、認知症の進行状況、意思能力の状態を示す資料となります。

介護記録として、デイサービス、訪問介護、施設入所などの記録は、親の生活状況、判断能力、家族との接触状況を示します。

親の生活実態を示す資料として、親の生活費がどの程度であったか、出金された金員が親の生活費として合理的に説明できる範囲を超えるかを判断する基礎となります。

出金者の生活実態を示す資料として、出金者の収入、購入した財産、生活水準の変化などから、出金された金員の流れを推認する手がかりとなります。

これらの資料を網羅的に収集することが、立証の出発点です。

4 親の意思能力が問題となる場合

出金時に親が認知症等で意思能力を欠いていた場合、当該出金は親の意思に基づくものとはいえません。この場合、出金者が親の意思能力の欠如を知りつつ出金を行ったか、知らなかったとしても通常人であれば知り得たかが問題となります。

意思能力の判断は、医療記録、介護記録、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などの認知機能検査の結果、主治医意見書、要介護認定の認定調査票などから総合的に行います。

長谷川式の合計点だけでなく、各下位項目のどの認知機能が低下していたかを精査し、当該出金行為(金額の理解、取引内容の認識、出金の意義の理解)に必要な認知機能を欠いていたかを論じることが、説得的な立証となります。

意思能力をめぐる判断は、当事務所が事実認定タブで別途扱う遺言能力の判断とも共通する論点であり、医療記録の網羅的収集と専門医の意見書取得が重要です。

5 出金者の説明義務と立証責任

使途不明金の追及で実務上重要な論点が、出金者の説明義務です。

出金者が親と同居していた家族で、通帳と印鑑を管理していた立場であった場合、当該出金について合理的な説明をする義務を負うと評価される場合があります。これは、信頼関係に基づく財産管理の場面で、管理者には善管注意義務に類似する説明義務が課されるという考え方に基づきます。

出金者が出金の使途について合理的な説明をできない場合、当該出金が親の意思に基づかない不当な出金であったと推認される余地が広がります。

立証責任の分配については、原則として相続人側に立証責任があるものの、出金者が通帳と印鑑を管理していた立場であったことが立証されれば、出金の合理的説明についての事実上の説明義務が出金者側に転換される場面があります。

6 立証の精度を高める論点──時系列分析

使途不明金の追及で立証の精度を高めるには、時系列分析が有効です。

出金の時期と親の状態の照合として、出金が集中した時期と、親の認知症の進行、入院・入所、家族構成の変化などの時期を照合します。親の認知症が進行した時期、家族関係に変化があった時期に出金が集中している場合、出金者の関与が強く推認されます。

出金パターンの分析として、出金が定期的・継続的であるか、特定時期に集中しているか、特定の金額が繰り返されているかなど、パターンの分析から出金の性格を推認します。

出金時の親の所在として、出金がATMで行われた場合、当該ATMの所在地と出金時に親が物理的にどこにいたかを照合します。親が入院中、施設入所中、寝たきりの状態であった時期に、当該ATMでの出金が行われていた場合、親本人による出金とは考えられず、出金者の関与が立証されます。

これらの時系列分析は、客観的時刻情報に基づくものであり、相手方が反論しにくい強力な間接事実となります。

7 反論への備え──出金者からの典型的反論

使途不明金を追及する側に対し、出金者からは次のような反論が出されることがあります。

第一に、親に頼まれて出金していたという反論です。親本人が認知症で答えられない以上、この反論を完全に否定するのは容易ではありません。これに対しては、親の意思能力の状態、親の従前の言動、出金者と他の家族の信頼関係などから、親の依頼があったとは考えにくいことを論じます。

第二に、親の生活費として使っていたという反論です。親が施設入所しており生活費がほとんどかからない時期、親が同居していて家族の生活費と区別しがたい時期など、状況によって反論の説得力は変わります。親の生活費の合理的な範囲を超える出金がある場合、その超過部分について反論できないことを論じます。

第三に、生前贈与であったという反論です。これに対しては、贈与契約の客観的証拠の有無、贈与税の申告の有無、贈与の時期と親の意思能力の状態などを論じます。

第四に、立替金の精算であったという反論です。出金者が親のために立て替えていた金員の精算であるという主張に対しては、立替の事実の立証、立替金額と出金額の整合性などを問います。

第五に、親が認知症であったとしても、当該出金時には正常な判断ができたという反論です。意思能力は時間の経過で変化するため、出金時点の意思能力を当該時点の医療記録、介護記録から精査します。

これらの反論への備えを訴訟戦略に組み込んでおくことが必要です。

8 使途不明金の追及の難しさ──「全額取り戻せる」とは限らない

使途不明金の追及は、客観的資料に基づく立証が必要であり、出金額のすべてを取り戻せるとは限りません。

立証が困難な場面として、次のような事情があります。

第一に、現金引出しで使途が追えない場合です。出金者の口座に振り込まれている場合は資金の流れが追えますが、現金で引き出された場合、その後の使途を立証することが困難になります。

第二に、長期間にわたる少額の出金が積み重なった場合です。一回一回の出金が少額で、生活費として合理的に説明できる範囲内にとどまる場合、出金者の責任を立証することが困難になります。

第三に、親の意思能力の状態が明確でない場合です。認知症の診断がなく、医療記録に意思能力に関する記述が乏しい場合、出金時に親の意思能力が欠けていたことの立証が困難になります。

第四に、出金者と親の関係が密接であった場合です。長年同居して財産管理を任されていた場合、当該管理の一環として出金された可能性を完全に排除することが困難な場面があります。

これらの場面では、立証可能な部分に絞って追及する、特別受益として遺産分割の中で考慮する、和解で一部の解決を図るなど、現実的な解決方針を選ぶことが必要になります。

9 使途不明金の追及で取るべき初動

使途不明金の存在を疑った相続人が取るべき初動は次のとおりです。

第一に、亡くなった親のすべての金融機関の口座について、取引履歴の開示請求を行うことです。被相続人の取引履歴は相続人として開示請求できます。複数の金融機関にまたがって口座があった場合、すべての金融機関について履歴を取得します。

第二に、医療記録、介護記録を網羅的に収集することです。生前の親の意思能力の状態を立証する基礎資料となります。本人が亡くなった後でも、相続人として開示請求が可能な場合があります。

第三に、親の通帳、印鑑、ATMカード、キャッシュカード、保険証券、年金関係書類などを確保することです。出金者が保管している場合、遺産整理を理由に引渡しを求めます。

第四に、出金者と他の相続人との連絡経過を整理することです。出金者が他の相続人に対してどのような説明をしているか、説明の変遷があるかを記録します。

第五に、早期に弁護士に相談することです。使途不明金の追及は時間がかかる作業であり、消滅時効や除斥期間の問題もあります。早期の対応が結果を左右します。

10 当事務所がお手伝いできること

当事務所は、相続をめぐる紛争、特に生前の使途不明金の追及について、対応経験を有しています。金融機関への取引履歴開示請求、医療記録・介護記録の収集、出金パターンの分析、親の意思能力の検討、出金者への請求、遺産分割の中での特別受益主張、訴訟手続の進行など、使途不明金をめぐる相続紛争に必要な作業を進めます。

亡くなった親の口座から多額の使途不明金が出てきた方、同居していた兄弟姉妹が親の財産を取り崩していた疑いがある方、すでに遺産分割協議が始まっており使途不明金が争点となっている方は、次の資料をご持参のうえ、ご相談ください。

・亡くなった親の戸籍謄本、住民票除票 ・親の預金通帳、取引履歴(既に取得済みの場合) ・親の医療記録、介護記録、要介護認定関係書類 ・親と出金者の関係を示す資料(同居の事実、財産管理の経緯) ・他の相続人との連絡経過 ・遺産分割協議の状況

使途不明金は、放置すれば消滅時効により取り戻せなくなる可能性があります。「家族のことだから穏便に」と先送りせず、早期にご相談ください。

お問い合わせ
あいち岡崎法律事務所
〒444-0864 愛知県岡崎市明大寺町字的場13-1 My Station Okazaki East 601
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