勾留決定が出ても諦めない|準抗告で勾留を取り消すための弁護活動
家族が逮捕され、検察官の勾留請求を経て、裁判官が勾留決定を出してしまった。これから10日間、延長されればさらに10日間、合計20日間にわたって警察署の留置場で身体拘束が続く。仕事は休まざるを得ず、家族の生活は崩れ、社会的信用にも影響が出る──。
勾留決定を受けて、多くの家族は「もう打つ手がない」と諦めてしまいます。しかし、これは誤解です。勾留決定が出た後でも、弁護人は準抗告(刑訴法429条1項2号)という不服申立てによって、勾留決定そのものを争うことができます。
準抗告は、勾留決定の翌日や翌々日に申し立て、別の裁判官(合議体)に判断してもらう手続です。準抗告が認容されれば、勾留決定が取り消され、被疑者は即日釈放されます。実際に、勾留決定が準抗告で取り消される事案は、刑事弁護実務において一定の割合で生じています。
このページは、勾留決定が出てしまった後、弁護人が準抗告を通じて勾留を取り消すために何を行うのか、家族として何を準備すべきかを、実務の視点から説明します。
1 準抗告とは何か──勾留決定への不服申立て
準抗告は、裁判官の決定に対する不服申立て手続です。刑訴法429条1項2号は、「勾留に関する裁判」に対して準抗告を申し立てることができると定めており、勾留決定もこの「勾留に関する裁判」に含まれます。
準抗告の手続上の特徴は次のとおりです。
申立人は弁護人または被疑者本人です。申立期間に明示の制限はありませんが、勾留期間内に判断を得る必要があるため、実務的には勾留決定の翌日から数日以内に申し立てるのが通常です。
申立てを受けた裁判所は、原則として3名の裁判官による合議体で判断します。当初の勾留決定を出した裁判官とは別の裁判官が判断することになり、別の視点からの再検討が期待できる点が、準抗告の特徴です。
判断は、原則として書面審理で行われ、被疑者や弁護人が直接出頭して意見を述べる機会は通常ありません。したがって、準抗告申立書の内容と添付資料が判断の決め手になります。
判断結果は、概ね申立てから2日から5日程度で示されます。準抗告が認容された場合、勾留決定が取り消され、被疑者は即日釈放されます。準抗告が棄却された場合、勾留はそのまま継続します。
2 準抗告で勾留決定を覆すために争う三つの要件
準抗告で勾留決定を覆すためには、当初の勾留決定が誤っていたことを示す必要があります。具体的には、刑訴法60条1項が定める勾留の三要件のうち、いずれかが欠けることを論じます。
第一に、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(嫌疑)を争う場面です。これは捜査の早い段階では争いにくい事項ですが、客観的証拠が薄弱である事案、被疑者の供述が一貫して否認である事案、誤認逮捕の疑いがある事案では、嫌疑そのものを争うことが選択肢に入ります。
第二に、勾留の理由(住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ)を争う場面です。これが準抗告で最も頻繁に争われる論点です。
第三に、勾留の必要性を争う場面です。勾留の理由が一定程度認められても、勾留せずに在宅捜査で対応できる事案、勾留による不利益が著しい事案では、勾留の必要性が否定される余地があります。
これら三つの要件のうち、どれを中心に争うかは事案によって異なります。実務では、複数の要件を併せて争いつつ、最も主張しやすい論点に重点を置くのが通常です。
3 罪証隠滅のおそれを争う準抗告のポイント
罪証隠滅のおそれは、検察官の勾留請求書で必ず強調される論点であり、当初の勾留決定でもこの理由が認められていることが多い項目です。準抗告でこれを争うポイントは次のとおりです。
(1)罪証隠滅の対象となる証拠が既に確保されていること
捜査が一定程度進展している段階では、客観的証拠(防犯カメラ映像、DNA鑑定資料、押収済み物証)が既に警察の手元にあります。これらは被疑者が釈放されても物理的に隠滅できません。
準抗告申立書では、押収目録謄本や警察作成の捜査報告書を引用し、客観的証拠が既に確保されていることを具体的に示します。
(2)関係者の供述が既に固定されていること
被害者、目撃者、関係者の供述が捜査の早い段階で固まっている事案では、被疑者が釈放されてもこれらの供述に影響を与える可能性は低いと評価されます。
特に、被害者が事件直後に警察に届け出を行い、詳細な供述調書が既に作成されている場合、被疑者の接触によって供述が翻る可能性は限定的です。被害者の処罰感情が強く、被疑者からの接触に対して即座に警察に通報する態勢にある事案では、罪証隠滅の現実的可能性はさらに下がります。
(3)被疑者の認否と争う範囲が明確になっていること
被疑者が事件について全面的に認めている事案、あるいは認めていない部分が限定的で、その部分について罪証隠滅工作を行う実益が乏しい事案では、罪証隠滅の主観的意図の程度は低いと評価されます。
弁護人としては、被疑者と接見した上で、争う範囲を具体的に確認し、争わない範囲については明確に認める姿勢を陳述書に記載させ、準抗告申立書に添付します。
(4)罪証隠滅を行う環境が物理的に存在しないこと
被疑者が釈放された後、関係者と物理的に接触できない環境にあることを示します。たとえば、両親等の身元引受人と同居予定であり、通信機器を身元引受人が管理する、被害者の生活圏とは離れた地域に居住する、職場との関係が既に断たれているといった事情です。
これらを具体的に示すことで、仮に罪証隠滅の意図があったとしても、現実的な実行可能性は低いという評価を引き出すことができます。
4 逃亡のおそれを争う準抗告のポイント
逃亡のおそれを争う準抗告のポイントは次のとおりです。
定住性として、被疑者が現住所に長期間居住していること、賃貸借契約書や公共料金の請求書で住所が特定できることを示します。
家族関係として、配偶者、子、扶養する両親などの存在を示します。同居家族がいる、家族の生活を経済的に支えている、介護対象の家族がいるといった事情は、被疑者が逃亡しにくい客観的事情として評価されます。
職業上の拘束として、勤務先での職務、自営業の取引先、医療・介護の利用者など、被疑者が逃亡できない社会的拘束を示します。
身元引受人の存在として、両親や配偶者など身元引受けの意思を持つ家族の上申書を添付します。身元引受人が監督に当たる態勢が整っていれば、逃亡のおそれは大きく下がります。
5 勾留の必要性を争う準抗告のポイント
勾留の理由が一定程度認められる事案でも、勾留の必要性を争うことで準抗告が認容される場合があります。勾留の必要性とは、勾留以外の手段で捜査の目的を達成できない場合に限り認められるものです。
事件の性質として、軽微な事件、罰金刑相当の事件、起訴猶予が見込まれる事件、初犯である事件は、勾留の必要性が低く評価されます。
被疑者の特殊事情として、未成年者、高齢者、重篤な持病を抱える者、妊娠中の者、家族の介護責任を負う者の場合、勾留による不利益が重く評価されます。
社会生活への影響として、勾留により解雇の可能性がある、学校の退学の可能性がある、重要な国家試験や資格試験を控えている、家族の生計を支えているといった具体的事情を示します。
捜査の進捗として、客観的証拠が既に押収されている、関係者の供述が既に得られている、被疑者の供述も一定程度固まっているといった状況を示すことで、勾留せずとも捜査は進められるという評価を引き出します。
6 当初の勾留決定後に新たに準備できる事情
準抗告では、当初の勾留決定時には考慮されていなかった新たな事情を示すことが有効です。当初の決定後、弁護人が短期間で整える事情としては、次のようなものがあります。
身元引受人の態勢の具体化として、当初の勾留決定の段階では身元引受けの意思しか示せていなかった場合、準抗告までの間に、身元引受人の上申書、同居予定住所の特定、通信機器・金銭の管理方針、監督方法の具体化を進めます。
被疑者の陳述書の整備として、被疑者と複数回接見し、事件への認否、争う範囲、被害者への謝罪・弁償の意思、関係者への接触をしない誓約などを詳しく記載した陳述書を作成します。
被害者への対応として、被害者への謝罪文の発送、示談申入れの開始、被害弁償金の準備などを進めます。被害者が応じない場合でも、申入れを行ったという事実そのものが、被疑者の反省と被害回復への意欲を示す材料になります。
医師の診断書として、被疑者の健康上の問題が深刻な場合、留置場での生活が健康に与える影響について医師の意見を取得します。
家族・職場の上申書として、家族の生活状況、職場での職務内容、勾留が継続することによる具体的影響を示す上申書を準備します。
これらを準抗告申立書に添付することで、当初の勾留決定の判断基礎が変化したことを示し、準抗告の認容を目指します。
7 準抗告認容の見込みが高い類型
実務上、準抗告で勾留決定が取り消されやすい類型は次のとおりです。
事件が比較的軽微で、被疑者が否認せず、被害者との示談の見込みがある事案。
客観的証拠が既に確保され、関係者の供述も固まっており、被疑者が罪証隠滅できる現実的可能性が低い事案。
被疑者が定住しており、家族関係が安定しており、身元引受けが確実な事案。
被疑者に健康上の重篤な事情があり、勾留により生命・健康への危険が生じる事案。
被疑者が若年であり、勾留により学業や将来への重大な影響が生じる事案。
これらの事情が複数重なる事案では、準抗告認容の可能性は大きく高まります。
逆に、重大事件で被害者の処罰感情が強く、被疑者が否認している事案、共犯者の存在が想定される事案、被疑者が暴力団関係者である事案などでは、準抗告認容のハードルは高くなります。ただし、これらの事案でも、具体的事情の積み上げによって認容に至る場合があり、諦めずに申立てを行う意義はあります。
8 準抗告のタイミング
準抗告のタイミングは、戦略上重要な判断事項です。
勾留決定直後に準抗告を申し立てる方法は、最も早期の身体拘束解除を目指す場合に選択されます。被疑者の生活への影響が深刻で、一日でも早い釈放が必要な事案では、勾留決定の翌日や翌々日に申立てを行います。
一定の事情変更を待ってから準抗告を申し立てる方法は、当初の勾留決定時にはまだ整っていなかった事情を準備した上で勝負したい場合に選択されます。たとえば、示談交渉の進捗を待つ、医師の診断書を取得する、身元引受人の態勢を具体化するといった準備期間を取ります。
実務的には、緊急性が高い事案では即座に申立てを行い、より準備に時間をかけたい事案では数日待つというバランスを取ります。
なお、準抗告が一度棄却されても、新たな事情変更があれば、勾留延長の段階で改めて準抗告を申し立てることも可能です。勾留延長決定そのものに対しても準抗告を申し立てる余地があります。
9 準抗告が棄却された場合の選択肢
準抗告が棄却された場合でも、弁護人として取りうる選択肢は残されています。
勾留取消請求(刑訴法87条)として、勾留の理由または必要性が事後的に消滅した場合に、勾留の取消しを請求することができます。事情変更が生じた段階で活用される手続です。
勾留執行停止(刑訴法95条)として、被疑者の家族の重病、被疑者本人の健康悪化、近親者の葬儀など、特別の事情がある場合に、一時的な釈放を求める手続です。
勾留延長への準抗告として、勾留期間の10日間が経過し、検察官が勾留延長を請求して認められた場合、その延長決定に対して再度準抗告を申し立てることができます。
起訴後の保釈請求として、起訴された後は保釈請求が可能になります。被疑者勾留段階では認められなかった釈放が、起訴後の保釈で認められる場合があります。
10 当事務所の取扱事例
当事務所では、勾留決定後の準抗告により、勾留決定が取り消されて被疑者が釈放された事案を扱ってきました。
ある事案では、検察官の勾留請求が認められ、当初の勾留決定が出された段階で、ご家族から弁護を依頼されました。当事務所は、即座に被疑者と接見し、事件への認否、争う範囲、被害者への謝罪意思などを確認した上で、被疑者本人の詳細な陳述書を作成しました。
並行して、ご家族と協力して身元引受人の態勢を具体化し、同居予定住所の特定、通信機器の管理方針、被疑者の外出状況の把握方法などを書面化しました。被害者への示談申入れも開始し、申入れの事実を準抗告申立書に記載しました。
当初の勾留決定から数日内に準抗告を申し立てた結果、別の合議体の裁判官は、罪証隠滅のおそれの程度が低減したこと、勾留の必要性も限定的であることを認め、勾留決定を取り消しました。被疑者は即日釈放され、その後は在宅のまま捜査が進みました。
最終的には、示談が成立し、起訴猶予処分となり、前科を避けることができました。
この事例は、勾留決定が出された後でも、弁護人が早期に動き、事情変更を具体的に示すことで、勾留決定を覆して被疑者を釈放させられる場合があることを示しています。
11 家族が取るべき初動
家族が逮捕され、勾留決定が出された場合、家族として取るべき初動は次のとおりです。
第一に、勾留決定後すぐに弁護人を選任することです。準抗告は時間との勝負であり、勾留決定から数日内に申立てを行うのが通常です。国選弁護人は勾留決定後に選任されますが、私選弁護人を選任する方が、準抗告申立てや示談交渉を積極的に進めることができます。
第二に、身元引受人の態勢を具体化することです。同居予定の住所、職業、収入、被疑者との関係、監督方針を整理し、書面化できるよう準備します。事件地域から離れた場所での同居が可能であれば、それも重要な要素になります。
第三に、被疑者の生活環境に関する資料を収集することです。賃貸借契約書、住民票、勤務先の就業規則、医療記録、学業関係の資料など、被疑者の社会的基盤を示す資料は、準抗告の主張の土台となります。
第四に、被害者側への対応方針を弁護人と協議することです。事件の性質によっては、勾留期間中の示談申入れが準抗告の判断にも影響します。
第五に、被疑者の健康状態を医師に確認することです。重篤な持病がある場合、留置場での生活が健康に与える影響を医師に意見書として記載してもらうことが、勾留の必要性を否定する材料となります。
12 当事務所がお手伝いできること
当事務所は、勾留決定後の準抗告について、別の合議体の裁判官に勾留決定を覆させ、被疑者を即日釈放させた事案を扱ってきました。罪証隠滅のおそれを下げる事情の具体化、逃亡のおそれを争う材料の準備、勾留の必要性を否定する事情の積み上げ、被疑者本人の陳述書の作成、身元引受人の態勢の整備、被害者への示談申入れなど、勾留決定から数日という短い時間に進めるべき弁護活動を迅速に行います。
家族が勾留されている方、勾留決定を受けたばかりの方、現在の弁護人の対応に不安を感じている方は、次の情報をご用意のうえ、ご相談ください。
・被疑者の氏名、生年月日、現住所、職業 ・逮捕された日時、罪名、留置されている警察署 ・勾留決定の日時、勾留期間 ・被疑者の家族構成、扶養家族の有無 ・身元引受人となり得る家族の情報(氏名、住所、職業、年齢) ・被疑者の健康状態、持病の有無 ・被疑者の社会的事情(仕事、学業、資格試験等)
勾留決定が出されたからといって、身体拘束が当然に20日間続くわけではありません。準抗告という選択肢が残されています。一刻も早くご相談ください。
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