トレントの示談金は本当にそのまま払うべきなのか|請求額の根拠と裁判所が認める損害額の差

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トレントの示談金は本当にそのまま払うべきなのか|請求額の根拠と裁判所が認める損害額の差

トレントの著作権侵害で22万円、44万円、88万円といった示談金を請求されたとき、「この金額は本当に適正なのか」「そのまま払うしかないのか」と疑問を持つ方は多いはずです。請求額の根拠、裁判所が認める損害額との差、なぜ権利者によって金額が違うのかを、具体的な数字と裁判例に基づいて検証します。

この金額を本当にそのまま払わないといけないのか

トレントの著作権侵害で権利者側から書面が届いたとき、書かれている金額を見て最初に思うのは「これは本当に適正な金額なのか」ではないでしょうか。

22万円、44万円、55万円、88万円。 権利者や代理人の法律事務所によって提示される金額はまちまちです。 しかも、同じ事務所が同じ種類の事案で、時期によって金額を引き上げていることがあります。

「法律で決まった金額なら仕方がない」と思うかもしれません。 しかし、これらの金額は法律で決まったものではありません。 権利者側が「この金額で払ってもらいたい」と考えて設定した金額にすぎません。

では、裁判所が認める損害額はいくらなのか。 結論から言えば、裁判例で認定された金額は、権利者側の提示額と比べて桁が違うことがあります。

本記事では、権利者側が提示する金額の内訳と、裁判所が計算式に基づいて認定する損害額を、具体的な数字で比較します。

1. 権利者によって提示額がこんなに違う

ITJ法律事務所の場合

ITJ法律事務所はトレントの著作権侵害事案で最も多くの権利者の代理人を務めている事務所の一つです。

この事務所の提示額は、時期によって次のように変わっています。

当初:1作品22万円(個別和解)、全作品55万円(包括和解)。 その後:1作品50万円(個別和解)、全作品77万円(包括和解)に引き上げ。 令和7年4月1日以降:1作品44万円(個別和解)、全作品88万円(包括和解)にさらに変更。

同じ事務所、同じ種類の事案で、22万円から88万円まで変動しています。 著作権侵害の態様が変わったわけでも、裁判所の計算式が変わったわけでもありません。 権利者側が「もっと取れる」と判断して引き上げただけです。

しかも、ITJ法律事務所は自社サイトで「弁護士を通じて交渉であっても、和解金額の減額等は行っておりません」と公表しており、この金額は交渉で動かないとされています。

窪田総合法律事務所の場合

窪田総合法律事務所は、株式会社アルファーインターナショナルの代理人として44万円を請求しています。 「最後通告書」と題された内容証明郵便で、到着後5日以内の支払いを求め、支払わなければ刑事告訴を行うと記載しています。

金額が違う理由

なぜ権利者や事務所によって金額が違うのか。 答えは単純で、法律で金額が決まっているわけではないからです。

和解金額は当事者間の合意で決まるものであるため、権利者側がいくらに設定するかは自由です。 「この金額で払ってもらえるだろう」という権利者側の回収戦略に基づいて設定されています。

つまり、提示額は適正な損害額を計算した結果ではなく、「取れるだけ取る」という方針の産物であることがあります。

2. 裁判所の計算式ではいくらになるのか

著作権法第114条第1項の計算式

裁判で争った場合、損害額は著作権法第114条に基づいて算定されます。

損害額 = ダウンロード回数 × 1ダウンロードあたりの利益額

ここで重要なのは2点です。

「販売価格」ではなく「利益額」が基準になる。 裁判所は物理メディア(DVD・Blu-ray)の販売価格ではなく、ダウンロード・ストリーミング形式の販売価格を基準にし、さらに利益率を掛けて利益額を算出します。

ダウンロード回数は、全期間ではなく、利用者が送信可能な状態にしていた期間に限定される。 プロバイダから意見照会書を受け取ってトレントの利用を停止するまでの期間に絞られることが多いです。

具体的に計算してみる

東京地裁令和5年8月31日判決の事案の数字を参考にします。

ダウンロード・ストリーミング形式の販売価格:1,450円。 利益率(約定配信コンテンツ料率):38%。 1ダウンロードあたりの利益額:1,450円×38%=約551円。

送信可能期間中のダウンロード回数が10回の場合、551円×10回=5,510円。 50回の場合でも、551円×50回=27,550円。

3. 提示額と裁判所の計算式を並べてみる

同じ「トレントの著作権侵害1作品」について、提示額と裁判所の認定額を並べると、次のようになります。

ITJ法律事務所(令和7年4月以降):1作品44万円。 ITJ法律事務所(当初):1作品22万円。 窪田総合法律事務所:44万円。 裁判所の計算式(ダウンロード回数10回の場合):約5,500円。 裁判所の計算式(ダウンロード回数50回の場合):約27,500円。 知財高裁令和4年4月20日判決の認容額:約1万6,000円から6万円台。 東京地裁令和5年8月31日判決の認容額:3万円を超えない。

提示額と裁判所の認定額には、数倍から80倍の開きがあります。

4. 包括和解の金額はさらに疑問がある

「全作品55万円」「全作品88万円」とは何か

ITJ法律事務所が提示する包括和解は、利用者が実際にダウンロードした作品数にかかわらず、依頼会社の「すべての作品」を対象にして一括の定額で和解するものです。

つまり、仮に1作品しかダウンロードしていなくても、88万円を請求されます。

1作品の裁判所認定額が数万円であれば、88万円との差はさらに大きくなります。

把握していない作品分まで払う必要があるのか

権利者側が実際にどの作品について開示請求を行ったのか、他の作品について本当に追加の開示請求が行われるのかは、書面からは分かりません。

把握していない作品についてまで一括で88万円を払う必要が本当にあるのかは、冷静に検討する必要があります。

5. 「相場」という言葉に惑わされない

「トレント 示談金 相場」で検索すると、「1作品あたり10万円から40万円が相場」「包括和解で50万円から80万円」といった記載が見つかります。

しかし、この「相場」は権利者側が設定した金額の集合にすぎません。 裁判所が認める損害額の「相場」ではありません。

「相場で払っておけば安心」と考えてしまうと、裁判で争えば数万円で済んだかもしれない事案で、数十万円を支払うことになりかねません。

6. 適正な金額かどうかを判断するために

提示された金額が適正かどうかを判断するには、次の点を確認する必要があります。

算定の基礎は販売価格と利益額のどちらか。物理メディア価格かデジタル配信価格か。

ダウンロード回数は全期間の回数か、自分が送信可能な状態にしていた期間に限定した回数か。

対象作品数は何作品か。包括和解の場合、実際にダウンロードした作品数との関係はどうか。

同種事案の裁判で認定された金額と比べて、提示額はどの程度の水準にあるか。

これらを検証しないまま提示額に応じると、裁判で争えば大幅に減額される可能性があった金額をそのまま支払うことになりかねません。

7. 提示額をそのまま払う前にできること

裁判で争う(応訴)

権利者側が訴訟を提起した場合に、弁護士をつけて答弁書を提出し、裁判所に適正額を認定してもらいます。

債務不存在確認訴訟を提起する

利用者側から先に訴訟を起こし、「〇〇円を超える損害賠償債務は存在しない」ことを裁判所に確認してもらいます。 東京地裁令和5年8月31日判決はこの訴訟で、3万円を超える債務は存在しないと判断されました。

放置はしない

提示額が適正でないと感じても、放置するのは危険です。 放置すれば訴訟を起こされ、対応しなければ欠席判決で権利者の請求額がそのまま認容されるおそれがあります。

適正でないと感じたときこそ、弁護士をつけて裁判で争い、裁判所に適正額を認定してもらうことが重要です。

まとめ

トレントの著作権侵害で提示される示談金は、法律で決まった金額ではなく、権利者側が独自に設定した金額です。

ITJ法律事務所は22万円から88万円まで値上げを繰り返しており、窪田総合法律事務所は44万円を請求しています。 しかし、裁判所が計算式に基づいて認定する損害額は、1作品あたり数千円から数万円程度にとどまることがあります。 裁判例では、1人あたり約1万6,000円から6万円台、あるいは3万円を超えないと判断された事案があります。

権利者側の提示額と裁判所の認定額には、数倍から数十倍の開きがあります。 この差は、提示額が法的な計算式に基づいたものではなく、権利者側の回収戦略に基づいて設定された金額であることから生じています。

提示された金額をそのまま払うべきかどうかは、裁判所の計算式と裁判例に基づいた見通しを弁護士に確認したうえで判断すべきです。 よほどの作品数を長期間にわたってダウンロードしていたような事情がない限り、裁判で争う方が得策であることが多いです。

よくある質問

提示された金額は法律で決まっているのですか。 決まっていません。提示される金額は権利者側が独自に設定したものであり、裁判所が認める損害額とは異なります。

なぜ権利者によって金額が違うのですか。 和解金額は法律で定められていないため、権利者がいくらに設定するかは自由です。権利者の方針や回収戦略によって金額が異なります。同じ事務所でも時期によって金額が変わることがあります。

提示額をそのまま払うのと裁判で争うのとではどちらが得ですか。 事案によりますが、裁判例では裁判所が認める損害額が提示額より大幅に低いことがあります。弁護士費用を含めても、提示額をそのまま支払うより総額が低くなるケースは十分にあり得ます。

「相場」で払っておけば安心ですか。 インターネット上の「相場」は権利者側の設定額の集合であり、裁判所が認める損害額とは異なります。「相場で払っておけば安心」とは限りません。

提示額が高すぎると感じたら、どうすればよいですか。 放置せず、弁護士に相談して裁判で争った場合の見通しを確認することが重要です。弁護士をつけて裁判で争えば、裁判所に適正な損害額を認定してもらうことができます。

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あいち岡崎法律事務所
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平日9:00〜17:00
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