ITJ法律事務所から届く「ご連絡」の読み方|株式会社ケイ・エム・プロデュースの請求内容と裁判で争った場合の見通し


トレントの著作権侵害で、株式会社ケイ・エム・プロデュースの代理人としてITJ法律事務所から書面が届くことがあります。1作品22万円の個別和解か、全作品55万円の包括和解か。刑事罰の説明と刑事告訴の予告。この書面に何が書かれていて、その金額が裁判で認められる損害額と比べてどうなのかを、実際の書面の内容と裁判例に基づいて解説します。

ITJ法律事務所から届く書面には何が書かれているのか

トレントの著作権侵害に関して、株式会社ケイ・エム・プロデュース(AV制作会社)の代理人として、ITJ法律事務所から「ご連絡」と題された書面が届くことがあります。

この書面には、対象となる著作物の作品名が具体的に記載され、著作権侵害の法的根拠、刑事罰の説明、和解金額の提示が含まれています。

多くの方は、この書面を読んで強い不安を感じ、提示された金額をそのまま支払ってしまいます。 しかし、この金額が裁判で認められる適正な損害額なのかどうかは、別の話です。

本記事では、ITJ法律事務所からの書面に何が書かれているのかを具体的に分析し、提示される金額が裁判例に照らしてどのような位置づけにあるのかを解説します。

目次

1. 書面の構成と記載内容

ITJ法律事務所から届く書面には、おおむね次のような内容が記載されています。

著作権侵害の指摘

依頼会社(ケイ・エム・プロデュース)が著作権を有する著作物について、利用者がインターネット上でトレントシステムを使用して違法にダウンロードし、トレントシステムを通じて第三者にダウンロードさせたことが指摘されます。

対象作品の作品名が具体的に記載されています。

刑事罰の説明

書面には、トレントの利用に伴う刑事罰が明記されています。

本件著作物をアップロードするという点については、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(著作権法第119条第1項)。 本件著作物をダウンロードするという点については、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(著作権法第119条第3項)。

そのうえで、「非常に違法性の高い行為である」と記載されています。

損害の説明

利用者の著作権侵害行為により、依頼会社は本来購入者から得られたはずの販売代金を取得することができなくなり、経済的損害を被ったこと、さらに損害賠償請求を行うまでに調査費用や弁護士費用など付随的な手続費用も発生しており、「その額は決して小さなものではありません」と記載されています。

和解金額の提示――2つの選択肢

ITJ法律事務所の書面で特徴的なのは、2つの和解案が提示される点です。

個別和解: 1作品につき22万円。

包括的和解: 依頼会社の全ての作品を対象として55万円。

つまり、対象作品が1作品だけであれば22万円ですが、「仮に本件著作物以外にも、依頼会社の複数の著作物を違法にダウンロード・アップロードされており、依頼会社の全ての作品を対象としての和解を希望される場合には、金55万円での包括的な和解に応じさせて頂きます」という形で、包括和解を促す記載になっています。

刑事告訴しない旨の条件

「和解が成立した場合には、本件著作物の著作権侵害に対する刑事告訴は行わないことを約束させて頂きます」と記載されています。

裏を返せば、和解しなければ刑事告訴の可能性がある、という含みを持たせた書き方です。

2. ITJ法律事務所は個別の条件交渉に応じない

ITJ自身が公表している

ITJ法律事務所は、自社のウェブサイトにおいて、「弁護士を通じて交渉であっても、当事務所の依頼者については和解金額の減額等は行っておりません」と明確に公表しています。

つまり、「22万円は高いから下げてほしい」「55万円を40万円にしてほしい」という交渉は、弁護士を立てても通じないということです。

選択肢は「言い値で払う」か「裁判で争う」か

交渉で減額ができない以上、選択肢は次の2つに絞られます。

ITJ法律事務所が提示した金額をそのまま支払う。 裁判で争い、裁判所に適正な損害額を認定してもらう。

ここで問題になるのが、22万円や55万円という金額が、裁判で認められる損害額と比べてどうなのか、という点です。

3. 裁判所が認める損害額との比較

裁判所が使う計算式

裁判で争った場合、損害額は著作権法第114条に基づいて算定されます。

損害額 = ダウンロード回数 × 1ダウンロードあたりの利益額

「販売価格」ではなく「利益額」が基準です。 裁判所は、ダウンロード・ストリーミング形式の販売価格に利益率を掛けて利益額を算出します。

さらに、ダウンロード回数は、その利用者が送信可能な状態にしていた期間に限定して認定されます。

裁判例の数字

知財高裁令和4年4月20日判決では、1人あたり約1万6,000円から6万円台の損害が認容されました。

東京地裁令和5年8月31日判決では、権利者が278万円を超える損害を主張したのに対し、裁判所は損害賠償債務が3万円を超えないと判断しました。

22万円・55万円との差

ITJ法律事務所が提示する個別和解22万円は、裁判例で認定された1作品あたりの損害額(数万円程度)と比べると、数倍から10倍以上の開きがあります。

包括和解55万円についても、裁判で争った場合に55万円がそのまま認められる可能性は、よほどの作品数と日数でない限り、低いと考えられます。

4. 「包括的和解55万円」の意味を考える

不安を利用した設計

包括和解の提示は、「1作品22万円。でも他にもダウンロードしていたら、全部まとめて55万円で済みます」という形になっています。

トレントを利用していた方の多くは、1作品だけでなく複数の作品をダウンロードした経験があります。 「他の作品についても後から請求が来るかもしれない」という不安を抱えている方にとって、55万円で全部終わるという提案は魅力的に見えます。

しかし、冷静に考える必要があります。 権利者側が実際に把握しているのがどの作品なのか、他の作品について本当に開示請求が行われるのかは、書面からは分かりません。

把握していない作品についてまで包括的に和解金を支払う必要が本当にあるのかは、検討の余地があります。

裁判で争った場合との比較

仮に5作品について裁判で争い、1作品あたりの損害額が裁判例どおり数万円程度に認定された場合、合計でも10万円から30万円程度になります。

弁護士費用を含めても、55万円をそのまま支払うより総額が低くなるケースは十分にあり得ます。

5. 和解条項の内容

ITJ法律事務所から送られてくる和解条項(案)には、次のような条項が含まれています。

和解金額と支払方法。 支払いを遅滞した場合の期限の利益喪失と年14.6%の遅延損害金。 期限の利益を喪失することなく全て履行した場合、刑事告訴を行わない。 清算条項(本和解条項に定めるもの以外に何らの債権債務がないことの確認)。 秘密保持条項(本和解条項の存在および内容について第三者に開示しないことの約束)。 謝罪条項。 再犯防止の約束。 合意管轄(東京地方裁判所)。

注意すべき点

特に注意すべきなのは、期限の利益喪失条項と刑事告訴の条件の関係です。

「支払を遅滞したときは当然に期限の利益を喪失」し、「第2項の義務の期限の利益を喪失することなく全て履行したときは、本件に関して刑事告訴を行わない」と記載されています。

つまり、分割払いの途中で1回でも支払いが遅れると期限の利益を喪失し、残額を一括請求されるだけでなく、刑事告訴しない約束も適用されなくなる可能性があるということです。

6. 刑事告訴の予告をどう読むか

書面には著作権法の刑事罰が詳しく記載され、和解しなければ刑事告訴の可能性を示唆する内容になっています。

著作権法違反が刑事罰の対象であること自体は事実です。 しかし、書面に刑事告訴の可能性を記載していることと、実際に告訴が行われるかどうかは別の問題です。 告訴が行われたとしても、警察が捜査を開始するか、検察が起訴するかは、さらに別の判断です。

「払わなければ必ず逮捕される」と読むのは正確ではありません。 他方で、「どうせ告訴しないだろう」と軽視するのも危険です。

重要なのは、刑事告訴の予告に動揺して、金額の妥当性を検討しないまま支払ってしまわないことです。

7. よほどの作品数と日数でない限り、裁判で争う方が得策

裁判例との乖離が大きい

ITJ法律事務所が提示する22万円(個別)や55万円(包括)は、裁判例で認定される損害額と比べて大きな開きがあります。

1作品・短期間の利用であれば、裁判で認められる損害額は数万円程度にとどまる可能性があります。 弁護士費用を含めても、提示額をそのまま支払うより総額が低くなるケースがあります。

交渉で下がらないからこそ裁判

ITJ法律事務所は個別の条件交渉に応じないと公表しています。 交渉で減額できない以上、金額に納得できなければ裁判で争うしかありません。

しかし、裁判で争えば、裁判所が計算式に基づいて損害額を厳密に認定してくれます。 その結果、提示額より大幅に低い金額が認定される可能性があります。

作品数・日数が多い場合は個別検討

多数の作品を長期間にわたってダウンロードしていた場合は、損害額が積み上がるため、裁判で争った方が有利とは限りません。 この判断は、対象作品の数と利用期間を踏まえて弁護士に確認するのが確実です。

まとめ

ITJ法律事務所から株式会社ケイ・エム・プロデュースの代理人として届く書面には、1作品22万円の個別和解と、全作品55万円の包括和解が提示されます。

ITJ法律事務所は個別の条件交渉に応じないと公表しており、「交渉で少し下げてもらう」という選択肢は使えません。

しかし、裁判例では、1人あたり数万円程度、あるいは3万円を超えないと判断された事案があり、22万円や55万円という金額は裁判で認められる損害額と比べると大きな開きがあります。

裁判所は、販売価格ではなく利益額を基準にし、ダウンロード回数も利用者が送信可能な状態にしていた期間に限定して認定します。

よほどの作品数を長期間にわたってダウンロードしていたような事情がない限り、裁判で争う方が得策であることが多いです。

書面の刑事罰の記載や刑事告訴の予告に動揺して、金額の妥当性を検討しないまま支払うことは避けるべきです。 まずは弁護士に相談し、裁判で争った場合の見通しを確認したうえで、対応方針を判断することをおすすめします。

よくある質問

ITJ法律事務所から22万円を請求されましたが、交渉で下がりますか。 ITJ法律事務所は、弁護士を通じた交渉であっても和解金額の減額に応じないと公表しています。減額を目指すのであれば、裁判で争うことが現実的な選択肢になります。

個別和解22万円と包括和解55万円のどちらを選ぶべきですか。 いずれの金額も、裁判例で認定される損害額と比べると大きな開きがあります。どちらを選ぶべきかではなく、そもそもこの金額で和解すべきかどうかを、裁判で争った場合の見通しと比較して検討することが重要です。

「全作品を対象とした包括和解」を選ぶと安心ですか。 権利者側が実際に把握している作品がどれなのか、他の作品について本当に開示請求が行われるのかは、書面からは分かりません。把握していない作品についてまで包括的に和解金を支払う必要があるのかは、検討の余地があります。

刑事告訴は本当に行われますか。 権利者側の方針や事案の内容によります。書面に刑事告訴の可能性が記載されていることと、実際に告訴が行われるかどうかは別の問題です。ただし、「どうせ告訴しないだろう」と軽視するのも危険です。

裁判で争った場合、損害額はいくらになりますか。 裁判所は、ダウンロード回数×1ダウンロードあたりの利益額で算定します。裁判例では1人あたり数万円程度の損害しか認められなかった事案があります。ただし、作品数や利用期間によって変わるため、個別に弁護士に確認するのが確実です。

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