トレントの意見照会書はすべて同じではありません。テレコムサービス協会の書式による任意の開示請求と、裁判所への開示命令申立がすでに行われているケースでは、手続の段階も対応の意味も異なります。手元の書面がどちらなのかを見分ける方法と、それぞれの対応への影響を解説します。
届いた意見照会書が「どちらの手続か」で、対応の意味が変わる
トレントに関する意見照会書が届いたとき、多くの方は「開示に同意するか、しないか」という点にまず意識が向きます。
しかし、その判断の前に確認すべき重要な点があります。 手元に届いた意見照会書が、どの手続に基づいて送られてきたものなのかです。
実は、意見照会書には大きく分けて2つの種類があります。
1つは、権利者側がプロバイダに対して、一般社団法人テレコムサービス協会(TELESA)の書式を用いて任意に開示を請求し、プロバイダが契約者に意見を確認しているケースです。 この書式は、実務上「テレサ書式」とも呼ばれています。
もう1つは、権利者側がすでに裁判所に発信者情報開示命令の申立てを行い、裁判所の手続の中でプロバイダが契約者に意見を確認しているケースです。
この2つは、手続の段階、回答の意味、開示が認められる見通しのいずれも異なります。 どちらの手続かを把握しないまま回答してしまうと、本来取り得た対応を見落とすおそれがあります。
本記事では、2つの手続の違い、見分け方、それぞれの対応への影響を解説します。
1. テレコムサービス協会書式による任意の開示請求とは何か
裁判所を通さない開示請求
テレコムサービス協会書式による開示請求とは、権利者側がプロバイダに対して、裁判所を通さずに直接、発信者情報の開示を求める手続です。 テレコムサービス協会が策定した所定の書式を用いて行われます。
権利者側がこの方法でプロバイダに開示を請求すると、プロバイダは契約者に対して「開示に同意しますか」という意見照会書を送付します。
この段階では、裁判所は関与していません。 プロバイダが、自社の判断で開示するかどうかを決めることになります。
契約者が「不同意」と回答した場合
テレコムサービス協会書式による任意の開示請求の場合、契約者が「不同意」と回答すれば、プロバイダが任意に開示することは実務上ほとんどありません。
プロバイダとしては、契約者の同意なく任意に開示して、後から契約者に損害賠償を請求されるリスクを負いたくないためです。
つまり、任意の開示請求のケースでは、「不同意」の回答が実質的に開示を防ぐ効果を持つ場面があり得ます。
「不同意」で終わるとは限らない
もっとも、任意の開示請求で不同意にしたからといって、問題が完全に終わるわけではありません。
権利者側が、改めて裁判所に開示命令の申立てを行う可能性があります。 その場合は、次に述べる「開示命令申立済みのケース」に移行することになります。
ただし、すべての権利者が必ず裁判手続に進むわけではなく、任意の開示請求で不同意の回答を受けた後、それ以上の手続を行わないケースも存在します。
2. 開示命令申立済みのケースとは何か
裁判所の手続がすでに始まっている
開示命令申立済みのケースでは、権利者側がすでに裁判所に対して発信者情報開示命令の申立てを行っています。 プロバイダ責任制限法の改正(令和4年10月1日施行)により新設された手続です。
この場合、プロバイダが送付する意見照会書は、裁判所の手続の一環として契約者の意見を確認するものです。
「不同意」と回答しても裁判所が判断する
任意の開示請求と異なり、開示命令申立済みのケースでは、契約者が「不同意」と回答しても、最終的な判断は裁判所が行います。
裁判所が権利侵害の要件を満たすと判断すれば、契約者の同意がなくても開示命令が出されます。 回答書に不同意の理由を書いたとしても、それが裁判所の判断資料として出てくるわけではなく、実務上の効果は限定的です。
したがって、開示命令申立済みのケースでは、不同意の回答だけで開示を防げるとは限りません。 任意の開示請求の場合とは、回答の持つ意味がまったく異なるということです。
3. 手元の書面がどちらなのかを見分ける方法
確認すべきポイント
意見照会書の書面には、手続の根拠や経緯に関する記載が含まれていることがあります。 次のような点を確認することで、どちらの手続かを判別できることがあります。
書面に「発信者情報開示命令」「開示命令申立」「裁判所」「事件番号」といった記載があるか。 同封資料に裁判所の書面(申立書の写しなど)が含まれているか。 同封資料に申立書の写しや書証の写しが含まれていない場合は、テレコムサービス協会書式による任意の開示請求である可能性があります。
判断が難しい場合
書面の記載だけでは判別しにくい場合もあります。 その場合は、プロバイダに問い合わせることで確認できることがあります。
また、弁護士に書面を見せれば、どちらの手続かは通常すぐに判別できます。
4. 対応への影響
テレコムサービス協会書式による任意の開示請求の場合
任意の開示請求であれば、「不同意」の回答が開示を実質的に防ぐ可能性があります。
ただし、不同意にする場合でも、事実関係の確認は必要です。 トレントを利用していないにもかかわらず届いた場合と、利用していた事実がある場合とでは、回答の書き方や今後の見通しが異なります。
また、任意の開示請求で不同意にした後、権利者側が裁判手続に進む可能性があることも念頭に置く必要があります。
開示命令申立済みの場合
開示命令申立済みであれば、「不同意」の回答だけで開示を防ぐことは期待しにくいのが実情です。
回答書の書き方で結果が変わることは基本的に期待できないため、開示が認められた後の対応(権利者側からの連絡への対応、弁護士への依頼)まで視野に入れて準備しておくことが重要になります。
どちらか分からないまま回答するリスク
手続の種類を確認しないまま回答すると、次のような問題が生じ得ます。
任意の開示請求なのに安易に同意してしまい、不同意で対応できた可能性を失う。 開示命令申立済みなのに、不同意にすれば終わると誤解して、開示後の準備を怠る。
どちらの手続かによって、回答の実質的な意味が変わるため、回答前の確認は不可欠です。
5. 回答前に整理しておきたいこと
手続の種類にかかわらず、回答前に次の点を整理しておくことが重要です。
書面の確認: どちらの手続に基づく意見照会書か。回答期限はいつか。同封資料に裁判所関連の書面があるか。
事実関係: 対象日時にトレントを利用していたか。契約者と実際の利用者が一致しているか。家族利用の可能性があるか。
今後の見通し: 任意の開示請求であれば、不同意後に裁判手続に進む可能性があるか。開示命令申立済みであれば、開示が認められた後にどのような連絡が来るか。
まとめ
トレントの意見照会書には、テレコムサービス協会書式による任意の開示請求のケースと、裁判所の開示命令申立が済んでいるケースの2種類があります。
任意の開示請求であれば、「不同意」の回答が開示を実質的に防ぐ効果を持つ場面があります。 開示命令申立済みであれば、「不同意」と回答しても裁判所が最終判断を行うため、不同意だけで開示を防ぐことは期待しにくいのが実情です。
この違いを知らないまま回答すると、取り得た対応を見落としたり、見通しを誤ったりするおそれがあります。
意見照会書が届いた段階で、まず確認すべきなのは「同意か不同意か」ではなく、「この書面はどちらの手続に基づくものか」です。 書面の種類を把握したうえで、事実関係を整理し、対応方針を検討することが重要です。
判断に迷う場合は、書面一式を弁護士に見せれば、どちらの手続かは通常すぐに判別できます。
よくある質問
任意の開示請求と開示命令申立済みは、書面のどこで見分けられますか。 書面や同封資料に「開示命令」「事件番号」「裁判所」といった記載があれば、開示命令申立済みの可能性が高いです。申立書の写しや書証の写しが同封されていない場合は、テレコムサービス協会書式による任意の開示請求である可能性があります。判断が難しい場合は、プロバイダに問い合わせるか、弁護士に確認するのが確実です。
任意の開示請求で不同意にすれば、もう請求は来ませんか。 任意の開示請求で不同意にした場合、プロバイダが任意に開示することは実務上ほとんどありません。ただし、権利者側が改めて裁判所に開示命令を申し立てる可能性はあります。すべての権利者が必ず裁判手続に進むわけではありませんが、不同意で問題が完全に終わるとは限りません。
開示命令申立済みの場合、不同意にする意味はありますか。 開示命令申立済みの場合、回答書に不同意の理由を書いても、それが裁判所の判断資料として出てくるわけではなく、実務上の効果は限定的です。裁判所が権利侵害の要件を満たすと判断すれば、不同意であっても開示命令が出されます。
どちらの手続か分からない場合、どうすればよいですか。 プロバイダに問い合わせることで確認できることがあります。また、弁護士に書面一式を見せれば、どちらの手続かは通常すぐに判別できます。
開示命令が出た後は、どうなりますか。 開示命令が出されると、プロバイダから権利者側に契約者の情報が開示されます。その後、権利者側から契約者に対して、損害賠償請求や和解の提案に関する連絡が届くことが一般的です。
