交通事故で家族を亡くされた方へ|死亡事故の損害賠償の全体像と、示談前に遺族が確認すべきこと

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交通事故で家族を亡くされた方へ|死亡事故の損害賠償の全体像と、示談前に遺族が確認すべきこと

交通事故で家族を亡くされたご遺族にとって、保険会社との賠償の話は、最も避けたい話題の一つだと思います。しかし、示談を急がず、内容を確認しないまま署名してしまうと、後から取り戻せない金額の差が生じます。

死亡事故の損害賠償は、総額で数千万円から1億円を超える規模になります。逸失利益、死亡慰謝料、葬儀費用、死亡までの治療費・入院費など、損害項目が多岐にわたり、それぞれに計算方法の選択肢があります。保険会社の提示額が妥当かどうかは、各項目を一つずつ検証しないと判断できません。

このページは、死亡事故の損害賠償の全体像、主要な損害項目の考え方、示談前にご遺族が確認すべき点を、実務の視点から説明します。

1 死亡事故の損害賠償の基本構造

死亡事故の損害賠償は、大きく次の項目で構成されます。

・死亡までの治療費・入院費(即死でない場合) ・死亡までの入通院慰謝料(即死でない場合) ・葬儀費用 ・死亡による逸失利益 ・死亡慰謝料(被害者本人分) ・死亡慰謝料(近親者分。民法711条の固有慰謝料) ・物損(車両、遺品等) ・弁護士費用(訴訟提起した場合)

このうち、金額の中核を占めるのは逸失利益死亡慰謝料です。この二つの項目で、損害総額の大部分が決まります。

請求権者は、被害者本人の損害賠償請求権を相続した法定相続人と、民法711条に基づく固有慰謝料請求権を持つ近親者(配偶者、子、父母)です。相続人が複数いる場合、相続分に応じて取得することになり、遺産分割の対象にもなります。

2 逸失利益 — 計算方法次第で数千万円動く

死亡による逸失利益は、亡くなった被害者が生存していれば将来得られたはずの収入の喪失を填補する損害です。計算式は次のとおりです。

逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

それぞれの要素について、保険会社の提示と裁判基準で差が出やすい点を順に見ます。

(1)基礎収入

原則として、事故前年の年収(税込み)を用います。会社員であれば源泉徴収票、自営業者であれば確定申告書が資料になります。

ただし、次の場合は基礎収入の設定で争いが生じます。

事業経営者・役員の場合 役員報酬のうち、労務対価部分と利益配当部分の区分が問題となります。労務対価部分は逸失利益の基礎収入となりますが、利益配当部分は原則として逸失利益から除外されます。保険会社は、役員報酬の相当部分を利益配当部分として基礎収入から除外する提示をしてくる傾向があります。この区分は、被害者の実際の労務内容、会社の規模、他の役員・従業員の報酬水準などから判断されます。

若年者・学生の場合 事故時点で就労していなかった若年者・学生の逸失利益は、賃金センサス(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)の平均賃金を基礎収入とします。学歴別、年齢別、性別の平均賃金のうち、どの欄を使うかで金額が大きく変わります。大学生であれば大卒全年齢平均、高校生であれば高卒全年齢平均、小中学生であれば全年齢平均賃金が原則ですが、個別事情で修正されます。

主婦(家事従事者)の場合 家事労働の経済的価値を賃金センサスの女性労働者全年齢平均賃金で評価します。共働きの主婦も、主婦としての逸失利益を別途請求できる場合があります。

高齢者の場合 年金受給者については、年金部分は逸失利益に含まれないのが原則(最高裁令和5年判決など)ですが、就労収入部分は逸失利益の基礎となります。高齢者でも就労継続の実態があれば、相応の逸失利益が算定されます。

(2)生活費控除率

被害者が生存していれば、将来の収入のうち一定割合は本人の生活費として消費されます。逸失利益は遺族の損失を填補する性格を持つため、この生活費相当分を控除します。

赤い本(日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」)の基準では、おおむね次のとおりです。

・一家の支柱で被扶養者1人:40パーセント ・一家の支柱で被扶養者2人以上:30パーセント ・女性(主婦、独身、幼児等含む):30パーセント ・男性(独身、幼児等含む):50パーセント

生活費控除率で10パーセント動けば、逸失利益は数百万円動きます。保険会社はこの比率を高めに提示する傾向があり、「被扶養者が1人でも50パーセント」等の主張に対しては、被害者の家族構成と収入構造を具体的に立証して反論する必要があります。

(3)就労可能年数

原則として、症状固定時から67歳までの年数を就労可能年数とします。被害者が67歳を超えている場合、または67歳までの年数が平均余命の2分の1未満の場合は、平均余命の2分の1を就労可能年数とします。

ライプニッツ係数は、将来の収入を現在価値に引き直すための中間利息控除係数です。民法改正後の法定利率(年3パーセント、民法404条)に基づくライプニッツ係数を用います。

(4)計算例

具体的な金額で見ます。

一家の支柱(男性、40歳、年収700万円、被扶養者は配偶者と子2人)が死亡した場合

・基礎収入:700万円 ・生活費控除率:30パーセント ・就労可能年数:67歳-40歳=27年 ・ライプニッツ係数(27年、年3パーセント):18.327 ・逸失利益=700万円×(1-0.3)×18.327=約8980万円

事業経営者(男性、45歳、役員報酬1500万円のうち労務対価部分1000万円、被扶養者は配偶者と子1人)が死亡した場合

・基礎収入:1000万円 ・生活費控除率:40パーセント ・就労可能年数:67歳-45歳=22年 ・ライプニッツ係数(22年、年3パーセント):15.937 ・逸失利益=1000万円×(1-0.4)×15.937=約9560万円

これらの例からも分かるとおり、死亡事故の逸失利益は1億円近くに達することが珍しくありません。基礎収入、生活費控除率、就労可能年数のどれか一つの設定で、総額が数千万円動きます。

3 死亡慰謝料 — 被害者本人分と近親者分

死亡慰謝料は、被害者本人の精神的苦痛に対する慰謝料(相続人が承継)と、近親者固有の慰謝料(民法711条)で構成されます。

裁判基準(赤い本基準)では、死亡慰謝料の総額(被害者本人分+近親者分)の目安は次のとおりです。

・一家の支柱:2800万円 ・母親、配偶者:2500万円 ・その他(独身の男女、子供、幼児等):2000万〜2500万円

これに対して、自賠責基準での死亡慰謝料は、本人分400万円+近親者分(請求者の数により550万〜750万円)+被扶養者がいる場合200万円で、最大でも1350万円程度にとどまります。

裁判基準と自賠責基準では、死亡慰謝料だけで1000万円以上の差が生じます。保険会社の提示は任意保険基準で行われますが、これは自賠責基準よりは高いものの、裁判基準より低い水準です。

近親者固有の慰謝料は、被害者の配偶者、子、父母が請求できます(民法711条)。兄弟姉妹、同居の内縁配偶者なども、事情によっては請求できる場合があります(最高裁昭和49年判決などの類推適用)。

4 葬儀費用 — 裁判基準では150万円が目安

葬儀費用は、裁判基準ではおおむね150万円が目安とされています。これを超える実費がかかった場合、実費がかかったこと自体と、その金額が相当であることを立証すれば、150万円を超える金額が認められる場合もあります。

自賠責基準では原則60万円、最大100万円までです。任意保険基準もこれに近い水準で提示される傾向があります。葬儀費用の差は数十万円ですが、裁判基準との差は積み上がります。

5 保険会社の提示額をそのまま受け入れた場合と、裁判基準で算定し直した場合の違い

具体的な事案で、提示額と裁判基準の差を見ます。

一家の支柱(男性、40歳、年収700万円、妻と子2人)が死亡した事案の例

保険会社の当初提示(任意保険基準) ・逸失利益:約7500万円(生活費控除率40パーセントで提示された場合) ・死亡慰謝料:約2000万円 ・葬儀費用:60万円 ・合計:約9560万円

裁判基準で算定し直した場合 ・逸失利益:約8980万円(生活費控除率30パーセント) ・死亡慰謝料:約2800万円 ・葬儀費用:150万円 ・合計:約1億1930万円

差額は約2370万円。生活費控除率の違いだけで約1500万円、死亡慰謝料の違いで約800万円、葬儀費用の違いで90万円が積み上がります。

事業経営者、高所得者、若年者(長い就労可能年数が設定される)、複数の扶養家族がいる事案では、裁判基準との差がさらに大きくなります。総額1億円を超える死亡事故で、裁判基準と保険会社提示の差が3000万〜5000万円になる事案も珍しくありません

6 過失割合でも数千万円が動く

死亡事故では、過失割合の論点も重大です。総損害額が1億円規模の事案では、過失割合10パーセントの違いで受領額が1000万円動きます。

過失割合は、別冊判例タイムズ39号(判例タイムズ社、全訂6版、令和8年3月発行)の図を当てはめて決まります。令和8年3月に38号から39号へ改訂され、歩行者と車両の事故、自転車関係の事故、駐車場内事故などで改訂が行われています。高齢歩行者が被害者となる死亡事故では、修正要素の「高齢者」の取扱いが39号で変更されており、過失割合が動く可能性があります

保険会社の提示書面に「別冊判例タイムズ38号」と記載されている場合、または根拠が示されていない場合、本件事故態様が改訂対象類型に該当するかを確認したうえで、39号の基準で再検討する意義があります。

7 署名前にご遺族が確認すべきこと

死亡事故で相手方保険会社から示談提示を受けた場合、署名する前に少なくとも次の点を確認してください。

・逸失利益の基礎収入は何を用いているか(源泉徴収票の総支給額か、手取りか、確定申告書のどの欄か) ・生活費控除率は何パーセントか(家族構成に照らして高すぎないか) ・就労可能年数は何年として計算されているか(67歳までか、平均余命の2分の1か) ・ライプニッツ係数は民法改正後(年3パーセント)のものを用いているか ・死亡慰謝料の金額は、裁判基準(一家の支柱2800万円、配偶者2500万円等)と比べてどうか ・近親者固有の慰謝料(民法711条)は計上されているか ・葬儀費用は150万円まで計上されているか ・過失割合は別冊判例タイムズ39号の基準に照らして適正か

示談書に署名してしまうと、後から増額を求めるのは極めて困難です。錯誤による取消し(民法95条)の救済手段は理論上ありますが、実際に覆すのは容易ではありません。死亡事故は金額が大きいため、数千万円単位の損失に直結します。

8 相続関係の整理も並行して進める

死亡事故の損害賠償請求権は、被害者本人の損害賠償請求権は相続の対象となり、近親者固有の慰謝料は近親者各自に帰属します。相続人が複数いる場合、相続分に応じた取得と、遺産分割協議の対象になる場合とがあり、整理が必要です。

特に、次のケースは注意が必要です。

・相続人の中に未成年者がいる場合(特別代理人選任が必要な場面がある) ・相続人の一部が連絡を取りづらい場合 ・相続放棄を検討している相続人がいる場合 ・被害者に借金があり、賠償金と相続財産の関係が問題となる場合

示談交渉や訴訟を始める前に、相続関係を戸籍謄本で特定し、相続人全員の関与を確保しておく必要があります。相続人の1人が他の相続人に無断で示談してしまうと、後に他の相続人との間で紛争になります。

当事務所では、死亡事故の損害賠償請求と並行して、相続関係の整理、遺産分割協議のサポート、必要に応じて相続放棄の手続もご案内しています。

9 弁護士費用特約の確認

弁護士への依頼を検討する際、弁護士費用特約が付いているかどうかを確認してください。

弁護士費用特約は、交通事故で被害者(遺族を含む)となった場合の弁護士費用を、自分が加入している保険会社が上限額(通常300万円)の範囲内で負担する特約です。ほとんどの交通事故事件の弁護士費用はこの範囲内で収まります。

死亡事故の場合、亡くなった被害者本人の自動車保険、遺族(配偶者・同居の子など)の自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険などに付帯している弁護士費用特約が使える場合があります。複数の保険を確認することで、弁護士費用を実質的に自己負担ゼロにできる場合があります。

10 当事務所の取組み

当事務所では、死亡事故の損害賠償について、逸失利益の基礎収入・生活費控除率・就労可能年数の各要素、死亡慰謝料の金額、近親者固有の慰謝料、葬儀費用、過失割合を、裁判基準に基づき一つずつ検証し、保険会社の提示額との差を数字でお示しします。示談で解決できる事案と、訴訟まで進める必要がある事案を見極め、ご遺族に各選択肢の見込み額と所要時間を具体的にご説明したうえで、方針を相談して決めています。

相続関係の整理、遺産分割協議、必要に応じた相続放棄の検討も、並行してサポートします。

交通事故でご家族を亡くされ、相手方保険会社から示談提示を受けた方、これから示談交渉を始める方は、次の資料をご用意のうえ、ご相談ください。

・相手方保険会社からの示談提示書 ・亡くなった被害者の事故前年の源泉徴収票または確定申告書(事業経営者の場合は決算書類一式) ・事故発生状況報告書、実況見分調書 ・診断書、死亡診断書 ・葬儀費用の領収書一式 ・戸籍謄本(相続人の特定のため) ・ご家族(ご依頼者様)の自動車保険・火災保険の保険証券(弁護士費用特約の確認のため)

示談金額が裁判基準で算定し直したときにどう動くか、どの損害項目に争点があるかを、具体的な金額でお示しします。


お問い合わせ

あいち岡崎法律事務所 〒444-0864 愛知県岡崎市明大寺町字的場13-1 My Station Okazaki East 601 電話 0564-73-3487 FAX 050-3172-6485 受付時間 平日9:00〜17:00 アクセス 名鉄東岡崎駅南口徒歩30秒

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