トレントの著作権侵害で利用者側から先に訴訟を起こすという選択肢|債務不存在確認訴訟とは何か
トレントの著作権侵害では、権利者側が訴訟を起こしてくるのを待つのが一般的なイメージかもしれません。しかし、利用者側から先に訴訟を起こすという選択肢があります。「債務不存在確認訴訟」と呼ばれるこの手続は、権利者側の提示額が不当に高いと考える場合に、裁判所に「その金額のうち適正額を超える部分は支払義務がない」と確認してもらうものです。攻めの姿勢で解決に臨む方法を解説します。
利用者側から訴訟を起こすとはどういうことか
通常、トレントの著作権侵害の裁判は、権利者側が利用者に対して損害賠償請求訴訟を提起するという形で始まります。
しかし、裁判は権利者側からしか起こせないわけではありません。
利用者側から「権利者が主張する金額のうち、〇〇円を超える部分は債務が存在しない」という確認を裁判所に求めることができます。
これが「債務不存在確認訴訟」です。
1. 債務不存在確認訴訟とは
「払う義務がない部分」を裁判所に確認してもらう訴訟
債務不存在確認訴訟は、「権利者が主張する債権のうち、一定額を超える部分は存在しない」ことを裁判所に確認してもらう訴訟です。
たとえば、権利者側が44万円を請求している場合に、「44万円のうち5万円を超える部分は債務が存在しない」と裁判所に確認を求めます。
裁判所がこの請求を認めれば、利用者が支払うべき金額は5万円(この例の場合)であることが確定し、残りの39万円については支払義務がないことが確認されます。
損害賠償請求訴訟の裏返し
損害賠償請求訴訟は、「利用者はいくら払え」という訴訟です。
債務不存在確認訴訟は、「利用者は〇〇円を超えては払わなくてよい」という訴訟です。
争点は同じです。裁判所が著作権法第114条に基づいて損害賠償金額を算定するという点で、どちらの訴訟でも行われる審理は実質的に同じです。
2. なぜ利用者側から先に訴訟を起こすのか
主導権を握る
権利者側が訴訟を提起するのを待っている間は、いつ提起されるか分からないという不安が続きます。
利用者側から先に訴訟を起こせば、利用者側のタイミングで手続を開始できます。
「いつ来るか分からない」という受け身の状態から脱することができます。
裁判所を選べる
権利者側が訴訟を提起する場合、東京地方裁判所など、権利者側にとって都合のよい裁判所に提起されることがあります。
利用者側から訴訟を提起する場合、利用者の住所地を管轄する裁判所に提起できます。
愛知県岡崎市に住んでいる方であれば、名古屋地方裁判所岡崎支部に提起できます。
地方在住の方にとって、自分の住所地の裁判所で手続が進むのは大きなメリットです。
権利者側に「裁判で争われる」ことを明確にする
利用者側から訴訟を提起するということは、「裁判で争う意思がある」ことを権利者側に明確に示すことです。
権利者側は、裁判で争われれば損害賠償金額が提示額を大幅に下回ることを認識しています。
利用者側が訴訟を提起したことで、権利者側が裁判の結果を見越して和解に応じやすくなることがあります。
時効の問題を確定させる
権利者側がいつ訴訟を提起するか分からない状態が続くと、時効の成否も不明確なままです。
利用者側から訴訟を提起すれば、裁判の中で時効の問題も含めて確定させることができます。
3. 債務不存在確認訴訟はどういう場合に使うか
交渉に応じない権利者への対応
権利者側が個別の条件交渉に応じないと公表している場合、交渉で金額を下げることは期待できません。
「提示額で和解するか、裁判で争うか」の二択になります。
裁判で争うことを選ぶ場合、権利者側が訴訟を起こしてくるのを待つこともできますが、利用者側から先に訴訟を起こすことで、待ちの期間をなくすことができます。
権利者側が訴訟を起こさずに督促を続けている場合
権利者側が訴訟を起こさないまま、繰り返し書面を送付して支払いを求めている場合、この状態が長期間続くことがあります。
利用者側から訴訟を提起すれば、裁判所の判断で金額が確定し、問題を終結させることができます。
複数の権利者から請求されている場合
複数の権利者から請求されている場合、すべてを待ちの姿勢で対応していると、解決までの期間が長引きます。
利用者側から訴訟を提起することで、能動的に解決を進めることができます。
4. 債務不存在確認訴訟の流れ
訴状の作成と提出
弁護士が、利用者の住所地を管轄する裁判所に訴状を提出します。
訴状には、権利者が主張する金額のうち、どの部分が債務として存在しないかを記載します。
権利者側が反訴する場合がある
利用者側が債務不存在確認訴訟を提起すると、権利者側が反訴(同じ裁判の中で損害賠償請求訴訟を提起すること)を行うことがあります。
反訴が提起されれば、債務不存在確認訴訟と損害賠償請求訴訟が同じ裁判所で同時に審理されます。
いずれの場合も、争点は「損害賠償金額がいくらか」という点で共通しています。
審理と判決
裁判では、利用者側が著作権法第114条に基づく反論を行い、権利者側が損害額の立証を行います。
裁判所が証拠と主張を検討し、損害賠償金額を認定します。
裁判の途中で、裁判所から和解が提案されることもあります。
5. 債務不存在確認訴訟のメリットとデメリット
メリット
利用者側のタイミングで手続を開始できる。
利用者の住所地の裁判所で審理される。
権利者側に「裁判で争う意思がある」ことを明確に示せる。
問題を能動的に終結させることができる。
「いつ訴訟を起こされるか分からない」という不安から解放される。
デメリット
訴訟を提起するための弁護士費用と裁判所への印紙代がかかる。
権利者側が反訴する場合がある。
裁判にかかる期間(半年から1年半程度)が必要。
権利者側が訴訟を提起するつもりがなかった場合でも、裁判になる。
デメリットの評価
弁護士費用については、権利者側の提示額と裁判所の認定額の差が大きければ、弁護士費用を含めても提示額を大幅に下回ることがあります。
権利者側が訴訟を提起するつもりがなかった場合に裁判になるというデメリットはありますが、「訴訟を起こされないだろう」と期待して3年間放置するリスクと比較して、どちらが合理的かは事案ごとに判断する必要があります。
6. すべての案件で債務不存在確認訴訟を起こすわけではない
事案に応じた判断
債務不存在確認訴訟は、すべての案件で使うべき手段ではありません。
権利者側との間で適正な金額での和解が見込める場合は、訴訟を起こさずに解決する方が効率的です。
債務不存在確認訴訟は、交渉の余地がない場合や、権利者側が訴訟を起こさずに長期間督促を続けている場合など、利用者側から能動的に解決を進めるべき場合に有効な手段です。
弁護士と相談して判断する
債務不存在確認訴訟を起こすべきかどうかは、事案の状況を踏まえて弁護士と相談して判断してください。
7. 当事務所の対応
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
債務不存在確認訴訟を提起する場合も、この主張立証を訴訟の中で行います。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
トレントの著作権侵害では、利用者側から先に訴訟を起こすという選択肢があります。
債務不存在確認訴訟とは、「権利者が主張する金額のうち、適正額を超える部分は支払義務がない」ことを裁判所に確認してもらう訴訟です。
利用者のタイミングで手続を開始でき、利用者の住所地の裁判所で審理されます。
権利者側に裁判で争う意思を明確に示すことで、問題を能動的に終結させることができます。
すべての案件で使うべき手段ではなく、事案に応じた判断が必要です。
裁判では、著作権法第114条に基づく主張立証を行い、適正な損害賠償金額の認定を目指します。
権利者側の請求に受け身で対応し続けるのではなく、利用者側から主導権を握って解決する方法があることを知っておいてください。
弁護士に相談して、ご自身の事案で債務不存在確認訴訟が有効かどうかを確認してください。
よくある質問
利用者側から訴訟を起こすことはできるのですか。
できます。債務不存在確認訴訟を提起することで、利用者側から主導権を握って解決を進めることができます。
債務不存在確認訴訟を起こしたら、権利者側はどう対応しますか。
権利者側が反訴(損害賠償請求訴訟)を提起することがあります。いずれの場合も、争点は損害賠償金額がいくらかという点で共通しています。
裁判所はどこになりますか。
利用者の住所地を管轄する裁判所に提起できます。愛知県岡崎市に住んでいる方であれば、名古屋地方裁判所岡崎支部です。
すべての案件で債務不存在確認訴訟を起こすべきですか。
そうではありません。事案の状況に応じて判断します。交渉の余地がない場合や、権利者側が訴訟を起こさずに督促を続けている場合に有効です。弁護士に相談して判断してください。
債務不存在確認訴訟を起こしたら、損害賠償金額はどうなりますか。
裁判所が著作権法第114条に基づいて損害賠償金額を算定します。当事務所では、これまで取り扱った案件ではいずれも数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
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