トレントの著作権侵害で「和解」にはどんな種類があるのか|裁判外の示談と裁判上の和解の違い
トレントの著作権侵害で「和解しませんか」と持ちかけられたとき、その和解が裁判外の示談なのか、裁判の中での和解なのかによって、条件の決まり方も法的な効力も異なります。権利者側から提示される和解案にそのまま応じてよいのか。裁判で争った場合に裁判所から提案される和解はどう違うのか。それぞれの特徴を解説します。
「和解」という言葉の意味は一つではない
トレントの著作権侵害に関する書面や説明の中で「和解」という言葉が出てきますが、和解には大きく分けて2つの種類があります。
裁判外の和解(示談):裁判所を通さず、当事者間で合意するもの。
裁判上の和解:訴訟の途中で、裁判所を介して成立するもの。
この2つは、条件の決まり方、法的効力、利用者側にとっての有利・不利が異なります。
1. 裁判外の和解(示談)
権利者側が条件を決めている
裁判外の和解は、権利者側が作成した和解条項案に利用者が署名する形で成立するのが一般的です。
個別和解であれば1作品ごとの金額、包括和解であれば全作品を対象とした定額が提示されます。
この金額は権利者側が独自に設定したものであり、法律で決まった金額でも、裁判所が認めた金額でもありません。
利用者側に交渉の余地がほとんどない
権利者側の代理人の中には、個別の条件交渉に応じないと公表している事務所があります。
この場合、裁判外の和解は「権利者側が決めた条件にそのまま応じるか、応じないか」の二択です。
利用者側が条件を変更したり、金額を下げたりする余地はほとんどありません。
和解条項の内容は利用者側に不利なことがある
裁判外の和解条項には、権利者側が作成したテンプレートがそのまま使われるため、利用者側に不利な条件が含まれていることがあります。
期限の利益喪失条項(1回でも支払いが遅れれば残額を一括請求)。
高率の遅延損害金(年14.6%等)。
刑事告訴をしない条件が全額完済に限定されていること。
秘密保持条項。
これらの条件について、利用者側が修正を求めても応じてもらえないことが多いです。
和解条項に署名すれば確定する
裁判外の和解は、双方が署名した時点で合意が成立します。
一度署名してしまうと、後から「金額が高すぎた」「条件が不利だった」と主張しても、和解を覆すことは極めて困難です。
2. 裁判上の和解
裁判所が関与して条件が決まる
裁判上の和解は、訴訟の途中で、裁判所が双方の主張を聞いたうえで和解案を提示し、双方が合意することで成立します。
裁判外の和解と最も異なるのは、裁判所が関与している点です。
裁判所は、双方が提出した準備書面と証拠を検討したうえで、「この程度の金額であれば妥当ではないか」と和解案を提示します。
和解金額は裁判所の見通しに基づいている
裁判上の和解で提示される金額は、裁判所がそのまま判決を出した場合に認められる損害賠償金額の見通しを踏まえたものです。
つまり、権利者側の言い値ではなく、裁判所が著作権法第114条の計算式と裁判例を踏まえて検討した結果に近い金額が和解案として提示されます。
そのため、裁判上の和解金額は、裁判外の示談金よりも大幅に低くなることがあります。
双方が合意しなければ判決に進む
裁判上の和解は、双方が合意しなければ成立しません。
利用者側が和解案の金額に納得できなければ拒否できますし、権利者側が金額に不満であれば拒否できます。
和解が成立しなければ、裁判所が判決を言い渡します。
和解調書には判決と同じ効力がある
裁判上の和解が成立すると、和解調書が作成されます。
和解調書は、確定判決と同一の効力を持ちます。
つまり、和解調書に記載された金額を支払わなければ、権利者側は和解調書を根拠に強制執行(給与差押え等)を申し立てることができます。
この点は、裁判外の和解書とは異なります。
裁判外の和解書には、それ自体に強制執行力はなく、権利者側が強制執行するには改めて訴訟を提起して判決を得る必要があります。
3. 裁判外の和解と裁判上の和解の違いを整理する
金額の決まり方
裁判外の和解:権利者側が一方的に設定した金額。交渉の余地がないことが多い。
裁判上の和解:裁判所が双方の主張を踏まえて提案した金額。裁判所の見通しに基づいている。
金額の水準
裁判外の和解:権利者側の設定額(1作品44万円、包括88万円等)。裁判で認められる金額より大幅に高いことがある。
裁判上の和解:裁判所の見通しに近い金額。裁判外の示談金より低くなることが多い。
条件の交渉
裁判外の和解:利用者側が条件を変更する余地はほとんどない。
裁判上の和解:裁判所が双方の意見を聞いて条件を調整する。利用者側にとって不合理な条件は、裁判所が修正する可能性がある。
法的効力
裁判外の和解:和解書自体に強制執行力はない。不履行の場合、権利者側は別途訴訟を提起する必要がある。
裁判上の和解:和解調書には確定判決と同一の効力がある。不履行の場合、直ちに強制執行が可能。
覆すことの困難さ
いずれの場合も、一度成立した和解を覆すことは困難です。
特に裁判上の和解は、判決と同一の効力があるため、事実上覆すことはできません。
4. 裁判外の和解に安易に応じるべきでない理由
裁判上の和解の方が利用者に有利な金額になることが多い
裁判外の和解は権利者側の設定額であり、裁判上の和解は裁判所の見通しに基づいた金額です。
裁判外の和解に安易に応じれば、裁判上の和解であれば得られたはずの大幅な減額の機会を逃すことになります。
裁判で争うことで裁判上の和解の機会が得られる
裁判上の和解は、訴訟の途中で裁判所が提案するものです。
裁判で争わなければ、裁判上の和解の機会は得られません。
つまり、裁判で争うという選択をすることで、裁判所の関与のもと、より適正な金額で和解する可能性が開けるということです。
5. 当事務所の対応
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。
その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
まとめ
トレントの著作権侵害で提案される「和解」には、裁判外の和解(示談)と裁判上の和解の2種類があります。
裁判外の和解は、権利者側が設定した金額と条件にそのまま応じる形であり、利用者側に交渉の余地はほとんどありません。
裁判上の和解は、裁判所が双方の主張を踏まえて金額を提案するものであり、裁判外の示談金よりも低くなることが多いです。
裁判で争うことで、裁判上の和解の機会が得られます。
裁判外の和解に安易に応じれば、裁判上の和解で得られたはずの減額の機会を逃すことになります。
いずれの和解も、一度成立すれば覆すことは極めて困難です。
和解に応じる前に、弁護士に相談して見通しを確認してください。
よくある質問
裁判外の和解と裁判上の和解はどちらが金額が安いですか。
一般的には、裁判上の和解の方が裁判所の見通しに基づいた金額になるため、裁判外の示談金よりも低くなることが多いです。
裁判外の和解に応じた後で、高すぎたと気づきました。やり直せますか。
和解が成立した後にこれを覆すことは極めて困難です。だからこそ、和解に応じる前に弁護士に見通しを確認すべきです。
裁判上の和解を拒否したらどうなりますか。
裁判所が判決を言い渡します。判決で認められる金額は、和解案と大きく異なることもあれば、近い金額になることもあります。
裁判上の和解にはどのくらいの期間がかかりますか。
訴訟が提起されてから和解が提案されるまでに、数か月から半年程度かかることがあります。弁護士に依頼していれば、裁判の進行に合わせて適切なタイミングで対応します。
裁判外の和解書に署名しなければ裁判になりますか。
権利者側が訴訟を提起するかどうかは権利者側の判断によります。署名しなければ直ちに訴訟になるとは限りませんが、訴訟を提起される可能性はあります。
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