トレントでアップロードするつもりはなかったのに損害賠償を払うのか|「故意」がなくても責任を負う理由
トレントの著作権侵害で書面が届いた方から「アップロードした覚えはない」「ダウンロードしたかっただけで、アップロードするつもりはなかった」という声をよく聞きます。意図してアップロードしていないのに、なぜ損害賠償を払わなければならないのか。「わざとやったわけではない」は法的にどう評価されるのかを解説します。
「わざとやったわけではない」が通用するかどうかは、民事と刑事で異なる
トレントの著作権侵害には、民事の損害賠償請求と、刑事の著作権法違反の2つの側面があります。
「アップロードするつもりはなかった」「わざとやったわけではない」という主張が法的にどう評価されるかは、民事と刑事で異なります。
結論を先に述べると、民事では「つもりがなかった」は免責事由にならず、損害賠償責任を負います。 刑事では「故意」の立証が困難であるため、刑事罰を科されにくい傾向があります。
1. 民事の損害賠償――過失でも責任を負う
民法第709条の要件
民事の損害賠償請求は、民法第709条に基づいて行われます。
民法第709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
ここで重要なのは、「故意又は過失」と書かれていることです。 故意(わざとやったこと)がなくても、過失(不注意)があれば、損害賠償責任を負います。
トレントの利用は「過失」に該当する
トレントのクライアントソフトは、ファイルをダウンロードすると同時に、ダウンロード済みの部分を他の利用者にアップロードする仕組みになっています。
「アップロードするつもりはなかった」としても、トレントのソフトを自分の意思でインストールし、自分の意思でファイルをダウンロードした以上、そのソフトがアップロードも行う仕組みであることを確認すべきであったと評価されます。
仕組みを調べずに利用したこと自体が、著作権侵害に対する「過失」にあたるということです。
裁判例上も、トレントの利用について過失が認められることには争いがなく、民事の損害賠償責任は認められています。
「知らなかった」は免責事由にならない
「トレントがアップロードもする仕組みだとは知らなかった」という主張は、過失の有無の判断において免責事由にはなりません。
知らなかったのであれば調べるべきだった、という評価になります。 法律上は、知らなかったこと自体が過失の一形態です。
2. 刑事の著作権法違反――故意の立証が困難
刑事罰には「故意」が必要
刑事罰を科すには、原則として「故意」が必要です。 故意とは、自分の行為が犯罪に該当することを認識しながら、あえてその行為を行うことです。
著作権法違反の罪も例外ではなく、故意がなければ刑事罰は科されません。
アップロードについての故意は立証が困難
トレントの利用者の多くは、ダウンロードが目的でソフトを使っており、アップロードを意図的に行っている意識はありません。
「ダウンロードしたかっただけで、アップロードするつもりはなかった」という利用者の認識は、故意の立証を困難にします。
トレントのソフトが自動的にアップロードを行う仕組みであることを十分に理解していたかどうかは、個々の利用者によって異なります。 この認識の不確かさが、刑事における故意の立証を困難にしている一因です。
権利者側が刑事告訴に積極的でない理由の一つ
権利者側の書面には「著作権法違反は刑事罰の対象です」「刑事告訴を行います」と記載されていることがありますが、実際に刑事告訴に踏み切るケースはそれほど多くありません。
その理由の一つは、アップロードの故意を立証することが困難であることにあると考えられます。
3. 民事と刑事の違いを整理する
民事(損害賠償請求)
過失でも責任を負う。 トレントの利用は過失と評価される。 「アップロードするつもりはなかった」は免責事由にならない。 損害賠償責任を負うこと自体は争いにくい。 争えるのは、損害額がいくらかという点。
刑事(著作権法違反)
故意がなければ刑事罰は科されない。 アップロードの故意の立証は困難。 権利者側が刑事告訴に踏み切りにくい理由の一つ。 ただし、故意が完全に否定されるとは限らない。
つまり
「わざとやったわけではない」は、刑事では有利に働く可能性がありますが、民事では免責事由になりません。
民事の損害賠償請求に対しては、「過失がなかった」と争うのではなく、「損害額がいくらか」を争うのが現実的な対応です。
4. 損害額は争える
過失であっても損害額は同じように争える
民事で過失に基づく責任を負うとしても、権利者側が請求する金額をそのまま支払う必要があるかどうかは別の問題です。
損害額は著作権法第114条に基づいて算定されるものであり、故意か過失かによって算定方法が変わるわけではありません。
当事務所では、著作権法第114条に基づき、作品の正規価格、ダウンロード回数、アップロードによる拡散可能性(共有比率や経過日数等)を踏まえた具体的な反論を行っています。 その結果、これまで取り扱った案件ではいずれも当事務所の主張する計算方法が裁判所に採用され、数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
もっとも、こうした反論が裁判所に採用されるかは、主張立証の具体性と精度に左右されます。
「アップロードの意図がなかった」は損害額の減額要素にもならない
「わざとアップロードしたわけではないから、損害額を下げてほしい」という主張は、損害額の算定においても通用しません。
損害額は、実際に発生した損害をもとに算定されるものであり、利用者の主観的な意図は算定に影響しません。
損害額を下げるためには、「意図がなかった」ではなく、1作品あたりの利益額、ダウンロード回数、送信可能期間を具体的に争う必要があります。
5. 刑事告訴への対応
故意の立証が困難であるとはいえ、リスクがゼロではない
刑事における故意の立証が困難であることは、刑事告訴が行われないことを保証するものではありません。
権利者側が刑事告訴を行い、捜査機関が捜査を行った結果、故意が認定される可能性がゼロとは言い切れません。
当事務所の対応
当事務所では、権利者側に対し刑事告訴を行わないよう交渉する方針を一貫してとっており、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
民事の損害額の主張立証と、刑事告訴の回避交渉は、並行して進めることができます。
まとめ
「アップロードするつもりはなかった」という主張は、民事と刑事で評価が異なります。
民事では、過失があれば損害賠償責任を負います。トレントの仕組みを知らずに利用したこと自体が過失と評価されるため、「つもりがなかった」は免責事由になりません。 刑事では、故意の立証が困難であるため、刑事罰を科されにくい傾向があります。ただし、リスクがゼロではありません。 民事で責任を負うとしても、損害額は争えます。争点は「過失の有無」ではなく「損害額がいくらか」です。 当事務所では、著作権法第114条に基づく具体的な主張立証を行い、これまで取り扱った案件ではいずれも数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
「わざとやったわけではない」は心情的には理解できますが、法的には民事の責任を免れる理由にはなりません。 責任を負うことを前提に、適正な損害額で解決するための対応を弁護士に相談してください。
よくある質問
アップロードするつもりはなかったのに、なぜ損害賠償を払うのですか。 民事では故意がなくても過失があれば責任を負います。トレントの仕組みを知らずに利用したこと自体が過失と評価されます。
「知らなかった」は免責になりませんか。 なりません。知らなかったのであれば調べるべきだったという評価になり、知らなかったこと自体が過失の一形態です。
故意がないなら刑事罰は受けないのですか。 アップロードの故意を立証することが困難であるため、刑事罰を科されにくい傾向はあります。ただし、リスクがゼロとまでは言い切れません。当事務所では、介入後に刑事事件として立件された案件は一度もありません。
「わざとではない」なら損害額は安くなりますか。 なりません。損害額の算定は、利用者の主観的な意図に左右されません。損害額を下げるには、利益額やダウンロード回数を具体的に争う必要があります。
過失しかなくても裁判で争えますか。 争えます。争点は「過失の有無」ではなく「損害額がいくらか」です。当事務所では、著作権法第114条に基づく主張立証を行い、これまで取り扱った案件ではいずれも数万円から十数万円程度にまで減額された解決に至っています。
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