【遺言書】 有効性を決める「筆跡」の証拠力

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遺言書の有効性を決める「筆跡」の証拠力:偽造疑いを防ぐための法的ポイント

自筆証書遺言において、その全文を「自筆」で書くことは法律上の絶対的な要件です。しかし、裁判実務では「本人の筆跡に似ている」というだけでは不十分とされるケースが多々あります。特に、遺言者が高齢であったり、健康状態が悪化していたりする場合、筆跡の真偽は親族間での深刻な争点(遺言無効確認訴訟など)に発展します。

今回は、裁判所が筆跡をどのように判断するのか、その実務的な視点を踏まえて解説します。


1. 筆跡鑑定だけでは決まらない?裁判所の判断基準

遺言書の筆跡が争われる際、よく専門家による「筆跡鑑定」が行われます。しかし、裁判所は鑑定結果のみを根拠に結論を出すわけではありません。裁判所は、筆跡の「恒常性(常に現れる癖)」と「希少性(その人固有の珍しい特徴)」に注目します。

  • 筆癖の照合: 単に字の形が似ているかだけでなく、筆順、字画の構成、配字(文字の間隔や配置)、筆圧の変化などを、過去の確実な筆跡(日記、契約書、手紙など)と比較検討します。
  • 偽筆の兆候: 他人が本人の筆跡を模倣して書いた場合、文字の角で筆が止まったり、震えが生じたりするなど、自然な筆運びではない「淀み」が生じることがあります。裁判所は、加齢による手の震え(振戦)なのか、偽造による不自然な筆跡なのかを慎重に見極めます。

2. 「添え手」による遺言書の法的リスク

高齢や病気で手が震える際、家族が手を添えて書く「添え手(添筆)」が行われることがありますが、これには極めて高い法的リスクが伴います。

最高裁判例によれば、添え手による遺言が有効と認められるには、以下の極めて厳しい条件をすべて満たす必要があります。

  • 遺言者が自筆する意図を持ち、他人の補助を求めたこと。
  • 他人の補助が、遺言者の手の動きを単にサポートする「筆記の補助」に留まっていること。
  • 遺言者の意思が、筆跡に直接反映されていること。

もし、添え手によって文字の形が整いすぎていたり、補助者の意図が介在したと判断されたりすれば、その遺言書は「自筆」とは認められず、無効となります。


3. 筆跡トラブルを未然に防ぐための対策

遺言書の筆跡をめぐる疑念は、親族間の「誰かが無理やり書かせたのではないか」という不信感に直結します。想いを確実に形にするためには、以下の準備が推奨されます。

  • 比較対象資料の保管: 遺言書を書いた時期と近い日付の自筆書類(家計簿、日記、公的書類への署名など)を併せて保管しておくと、裁判における有力な対照資料となります。
  • 作成過程の録画: 自らペンを持ち、自分の意思で書き進めている様子を動画で記録しておくことで、筆跡の真正や遺言能力を強力に証明できます。
  • 公正証書遺言の検討: 筆跡の争いを根本的に排除したい場合は、自筆が不要で公証人が関与する「公正証書遺言」を選択するのが最も確実な方法です。

まとめ

遺言書における筆跡は、単なる「文字」ではなく、遺言者の「意思」そのものを象徴するものです。しかし、その証拠力は、作成時の状況や健康状態によって揺らぐことがあります。

後世に争いの種を残さないためには、形式を整えるだけでなく、将来「偽造」を疑われないための客観的な準備をしておくことが大切です。

相続に関する不安や、より確実な遺言書の作成方法を知りたい場合は、法律の専門家である弁護士に相談し、リスクを最小限に抑えるアドバイスを受けることをお勧めします。

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